2025/03/07
映画監督 塚本連平さん「書くことはめんどくさいしキライ。でも個性を出せるのが魅力」
映画監督 塚本 連平さん インタビュー
数々の人気作品を生み出し、2025年3月7日公開の笑福亭鶴瓶さん主演映画『35年目のラブレター』の脚本・監督を務めた塚本連平監督。日々の生活の中で書くこと、そして映画作りへの思いについてお話を伺いました。
― 映画『35年目のラブレター』は、壮絶な生い立ちゆえ、読み書きができないまま半生を過ごしてきた西畑保さんが、60歳を超えて夜間中学で習い、愛する妻にラブレターを書いたという実話をもとにした作品です。保さんのことを知ったとき、なぜ映画にしたいと思われたのですか?
保さんのことを妻から聞きインターネットでいろいろと調べてみたら、保さん直筆のラブレターを見つけたんです。それを見た瞬間に心がジーンとして、絶対「この実話で映画を作りたい」と思いました。
文字に人柄が出ていて、文章は素朴な感じだけど気持ちがこもっていて、流暢ではないけど、一生懸命、丁寧に書かれた感じが伝わってきました。そして、ところどころ字を間違えているところも、味がありました。
映画『35年目のラブレター』。主人公の西畑保役に笑福亭鶴瓶さん、妻・皎子役に原田知世さん。
35年目のラブレター 3月7日(金)全国公開
配給:東映 ©2025「35年目のラブレター」製作委員会
― 保さんが書かれた手紙には、"塚本監督の心を動かす力"があったのですね。この作品では、どんな思いを込めたのでしょうか?
「何歳からでも、どんな生まれ育ちでも、可能性はある」ということを描きたかったです。また、夫婦や家族、夜間中学の話とか、「平和とは何なのか」「普通とは何なのか」など、いろいろな要素を台本に入れました。「何歳でもチャレンジする大切さ」は、自分も身に染みて感じています。僕自身、台本を書いていてくじけそうになったときも、保さんのおかげで「頑張ろう」と思えました。
― 鶴瓶さんが演じる保さんは、いかがでした?
最高でした。この役は絶対に鶴瓶さんにやっていただきたかったんです。関西の方で、保さんに近い年齢で、楽しくて温かくて芝居がうまくて、ちょっと丸みをおびたフォルムをもった方は、鶴瓶さんしかいないと思ったんです。だから台本は、鶴瓶さんのことも思い浮かべながら書きました。思ったとおり、鶴瓶さんはとても素敵に演じてくださいました。
― 実話だからこそ気をつけたことはありますか?
「モデルになった方々が嫌なことは、絶対しない」ということですね。僕自身、実話の映像化をすることは多いのですが、モデルになった人に対して失礼になることはしたくないし、むしろでき上がった作品を観て、喜んでいただけるといいなと思いながら作っています。
― 実は、この作品でパイロットコーポレーションも装飾協力をさせていただきました。
劇中でこの映画の鍵となる「保さんに奥様が最初にプレゼントした万年筆」として、昭和30年代に販売された当時の万年筆(現在は販売終了品)をお借りしました。僕たちが若かったころは、お祝い事のプレゼントに万年筆をもらうことが多かったんですよね。入学、卒業、就職とか。僕は中学に入ったときにもらいました。
劇中に使用された昭和30年代に販売されたパイロット製万年筆。保さんのT.N.のイニシャル入り。
― 今回の映画では、私たちが日常的に行っている「読むこと」や「書くこと」の重要性に気づかされる内容となっていました。塚本監督は「書くこと」についてどのように感じていますか?
正直に言うと……めんどくさいしキライなんです(苦笑)。ただ、以前、僕が書いた台本を他の脚本家の方にリライトしていただいたことがあったのですが、自分にとっては個性だと思っている部分を落とされてしまったことがありまして。それなら、文筆力が足りなくてもなるべく頑張って自分ひとりで書いて個性を出そう、と思っているところがあります。
― 日常ではどんなときに「文字を書く」という行為をしていますか?
頭の中を整理するときは、まずはネタ帳に落書きみたいに書きますし、人からお話を伺うときにはメモをとっています。あと、台本に書き込むことが多いです。主に縦の線を引いて、カット割り(シーンごとの構図やアングル)を書いています。複雑なシーンやアクションがある場合は、絵コンテ(構成が書かれた絵の設計図)を書きますが、基本的には台本にカット割りを書き込んで、カメラマンには口頭で説明をしています。
現場で気づいたことがあったときも、すぐに台本に書きます。書かないと忘れてしまうので。現場では丁寧に書いている時間はないので、ひどい字です。たまに、自分でも読めないことがあります(笑)。
字を書くのは下手ですが、文字自体は好きで、ドラマや映画の中のタイトルやテロップの文字の書体には、すごくこだわっています。映画『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』(2008年)のときは、小道具として“ちょっと変な張り紙”を作ったのですが、その言葉は、スタッフのみんなで一緒に考えて、手書きをしました。あ、「書くのはキライ」と言いながら、意外といろいろとやっていますね(笑)。
台本には、カット割りやメモがたくさん書かれている。
― 筆記具には、こだわりはありますか?
実は、僕はすぐにペンをなくしてしまうんです、特に現場だと。台本に挿していても、どこかに落としてしまう。だから、今はお手ごろな価格のシャープペンシルを使っています。シャープペンシルだと、間違えても文字が消せますしね。
映画『35年目のラブレター』の台本には、付箋がいっぱい!シャープペンシルを愛用。
― 「書く行為」で何か思い出はありますか?
映画監督になる前は会社に勤めていたのですが、それが性に合わなくて嫌になったときに、筆ペンで一心不乱に自分の好きな言葉……「LIVE FREE OR DIE(自由に生きるか、さもなくば死を)」を何十枚と書き続けていました。書いていると、気分がよくなり、心が落ち着いたんです。
あと、“ラブレターみたいなもの”を書いたことがあります。妻がまだ恋人だったころ、彼女がワーキングホリデーで海外に行っていたことがあるんです。そのころはまだインターネットを使うことが少なかったので、手紙を出していました。内容は……「ブルース・リーの映画がおもしろい」とか、どうでもいいようなことばかり書いていましたが(笑)。たまに妻からも絵ハガキで返事がきていましたが、うれしかったですね。くるのが待ち遠しかったです。今でも妻や子どもの誕生日には、カードにメッセージを書いて渡しています。
― たくさん書いていらっしゃいますね(笑)。確かに「書く行為」で感情を発散させることができたり、直筆の手紙を送り合うことによって心の距離が縮まったりしますよね。映画では心のこもった手紙というのは、プレゼントになり得るということを感じました。塚本監督にとって、「手書きならではの魅力」は何だと思いますか?
文字自体に個性やキャラクターが出ますよね。文字を見て、「この人は、意外にもこういう感じなんだ」と思うこともあります。僕は非常に下手なので、字がうまい人には憧れます。
台本に書かれた塚本監督の個性的な文字。
― 塚本監督にとって、「クリエイティビティの原動力」となるものは何でしょうか?
「映画が好き」という思いですね。監督として、映像とストーリー、音楽などで何かを伝えるという仕事をしていますが、これがいちばんやりたいことなんです。おかげさまで、今は映画やテレビで監督をやらせてもらっていますが、仕事がくるのを受け身で待っているだけでなく、日ごろから、“自分がグッとくるもの”を探しています。
― 映画のどんなところが好きですか?
「心を動かされる」ところですね。「わぁ、感動した!」でもいいし、「すごく笑った」でも、「怖かった」でも何でもいいんです。
作品はコメディでも恋愛ものでもホラーでも、どんなジャンルでも観ます。変な映画も好きです。「なんてくだらないんだ!」って思いながら観るのも、楽しいです(笑)。
自分がそうやって映画によって心を動かされてきたことで、そのときに悩みがあっても、「でも、大丈夫」「頑張ろう」と思えるようになったことは、たくさんあります。だから、観てくれる方々に僕もそういうことをできたらいいなと思っています。
自分が企画するときは、映画館を出たときに「明日も頑張ろう」と思える、何か希望が持てるようなものをやりたいですね。あと、なるべく笑えるところを入れるようにしています。
― 監督の作品は、クスッと笑えたり、心をほっこりさせたりするものが多いですね。今後、取り組みたいことはありますか?
やりたい企画は山ほどあるので、それをちょっとずつでも実現していきたいです。いくつか“実話がベースのもの”も考えています。「事実は小説より奇なり」といいますが、びっくりするほどおもしろいことがいっぱいあります。こんなことは、どんな作家でも考えつかないだろうということも。
そして、日本だけでなく世界中で映画を作ったり、僕の作品を観てもらえたりできるようになりたいです。その国での実話だから、実際にそこに行かないと撮れないというものもありますしね。だから、僕も保さんのように、「何歳からでもやろうと思ったら、できるかもしれない」という思いは、いつまでも持っていたいですね。
塚本 連平 さん 映画監督
1963年生まれ、岐阜県土岐市出身。日本大学芸術学部卒業後、テレビ界入り。『時効警察』シリーズ(テレビ朝日系)、『ドラゴン桜』(TBS系)、『舟を編む ~私、辞書つくります~』(NHK)など数多くの人気ドラマを演出。映画作品では『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』('08)、『今日も嫌がらせ弁当』('19)、『TELL ME ~hideと見た景色~』('22)などを手がけた。最新作『35年目のラブレター』は、3月7日(金)から全国で公開。
【作品情報】
映画:35年目のラブレター
公開日:2025年3月7日(金)
出演:笑福亭鶴瓶 原田知世
重岡大毅 上白石萌音
監督・脚本:塚本連平
配給:東映
公式サイト https://35th-loveletter.com/
公式Xアカウント @35th_loveletter
公式Instagram @35th_loveletter
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