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2026.01.09

俳優/歌手 上白石 萌音 さん「書くとは誰かを思うこと、自分を知ることです」

俳優/歌手 上白石 萌音 さん インタビュー

ドラマの中で書いた手紙や、ファンに宛てたメッセージが達筆だと何度も話題になった上白石萌音さん。趣味は読書。瑞々しい感性をやわらかな言葉でつづるエッセイや歌詞にも多くのファンがいます。公私ともに言葉や文字と縁の深い上白石さんが、今も大切にしているのが「手で書く」こと。人との絆を深め、自分を見つめることにも役立つという手書きの魅力を語ってもらいました。

誰かを思って「筆をとる」
その特別感が好きなんです

― 現代の生活では仕事からプライベートまで、手で文字を書かずにデジタルツールで済ませることが増えました。上白石さんは現在どのぐらいの頻度で手書きをしていますか?

毎日必ず、です(笑)。台本に書き込みをするのはもちろん手書きですし、現場でもらったアドバイスをメモしておいたり、何かでコメントする用の原稿を書いたり、仕事のために書くものはほぼ全て手書きです。

エッセイのようにまとまった量の文章を書くときはパソコンも使いますが、普段から素材をたくさん集めるための手書きのノートをつくっておいて、そのページをめくりながら「さあ、何を書こうかな」と考えていきます。


― 台本への書き込みには、ご自身が演じる役のイメージに合う筆記具を探して使うそうですね。

最近は36色の色えんぴつを用意して、その役がきっと好きだろうなと思う色で書き込みをしています。撮影が始まって最初のうちはイメージが決まらないんですが、自分なりにその役が「わかった」と思うと色を選べるようになるんです。


― それだけ書くことが習慣になっていると、きっと書くスピードも速いのですね?

いえ、全然速くないです。なぜなら私は自分の言葉を信用していないから。これで本当に伝わるだろうか、自分の気持ちと齟齬はないか、この言葉が誰かを傷つけてしまわないか、すごく時間をかけて考えます。何も疑うことなく言葉を発するようになってしまったら、これまで大事にしてきた自分の「根っこ」がなくなるような気がして。

だから、同じように「自分の言葉を疑っている人」の発する言葉が私はとても好きなんです。どこかで借りてきたようなフレーズではなく、自分自身で見つけた言葉を慎重に慎重に積み上げたような文章に出会うと、自分もそんなふうに言葉を使う人でありたいと思います。

気のおけない相手とリズムよく会話のピンポンを楽しむような関係も素敵ですが、本当に大事なときに言葉を間違わず使えるようにしたいんです。なので、みなさんがどこかで目や耳にする私の言葉は、一見アドリブのようでもきっと前夜に悩み抜いて練られた言葉です(笑)。



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― ご家族にも手書きのメッセージを送ることがあるそうですね。

うちの家族の間では誰かの誕生日や母の日、父の日などの記念日に手書きのカードを送り合うのが決まりのようになっていて、忙しくてもみんなその習慣はずっと続けています。普段から電話やメッセージで連絡は取り合っていますが、手書きとなるとその時点であらたまった気持ちになるので、普段なら言えない言葉も照れずに伝えられる気がします。

そんなカードはもらうのはもちろん、書くことも特別感があって好きなんです。1枚のカードに全員のコメントを集めるので、1人あたりのスペースは限られています。だから本当に伝えたいことだけをギュッと凝縮して、1文字1文字気持ちを込めてペンを走らせる。それは、書いているこちらも自然に背筋が伸びるような気持ちのいい時間です。


― 仮に同じ言葉を書いていても、メッセージアプリなどと手書きのカードでは伝わるものが違いますか?

そう思います。むしろ手書きでなければ伝わらないものが、やっぱりある気がします。私には文通している相手もいて、その人とはメッセージアプリでもつながっているんですが、時々どうしても長文を書いて送りたくなることがあって。親しい人であればあるほど、普段は「感謝や尊敬なんてわざわざ言わなくてもわかるでしょ?」と思いがちですが、時にはきちんと気持ちを伝え直すことも必要だと思います。

実際に切手を貼って投函するので、気持ちが相手に届くまでの「遅さ」もなんだかいいんです。いつでも手軽に発信できるデジタルの時代だからこそ、誰かを思ってわざわざ「筆をとる」ことの特別感やうれしさは、ますます強く感じられるような気がします。書くということは、人を大切にすることでもあると思います。



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手書きの文字には書いた時の
気持ちまで残る気がします

― 日記もつけているそうですね。

私はこれまで何をやっても三日坊主で以前は日記も苦手だったんですが、3年日記を始めてからは続けられていて、今はもう2年目です。

私の使っている日記帳は、1日分の記入スペースが5行だけしかありません。たった5行だから気負わずに書けるし、5行しかないから難しくて悩む日もあります。どうしてももう少し書きたいときは、欄外にゴニョゴニョって書いちゃう日もありますけど(笑)。

その日考えたり感じたりしたことを最後にアウトプットしてから眠ると、すっきりと気持ちを切り替えて次の日に進める気がします。たまに疲れて何も書かずに寝てしまった日は、決まって嫌な夢を見るんです。私の場合は書くことが、心の健康にも直結しているようです。


― 上白石さんはお仕事でも「書く」ことが多いですが、それは今後も大切にしていきたいですか?

エッセイのように自分の経験や考えを書き記す作業は、年齢を重ねながら少しずつでも続けていけたらと思います。怖いですけどね、自分の胸のなかにあるものを書くというのは。でも自分がどういう人間で、現在地はどこなのかを知るいちばんの方法は、やっぱり「書く」ことだと思うんです。

エッセイでも歌詞でも、気を抜くとつい格好つけようとするので、そんな自分にストップをかけて、「違うでしょ」「そうじゃないでしょ」と削ぎ落としながら言葉を紡ぐことは、人として成長するためのいい訓練になっている気がします。


― あらためて、デジタルツールを使わずに「手で書く」ことの魅力はどんなことでしょう?

手書きは「上書き保存ができない」ことも良さだと思うんです。ある言葉を書こうとして、やっぱりやめようと消してしまう。でもその言葉を書きたい気持ちは確かにそこにあった。デジタルだとすぐにデリートできるので痕跡が残りませんが、手書きだと上から線で消しても過程は残りますよね。

以前、ロンドンの大英図書館で、The Beatlesの手書き歌詞の展示を見たことがあります。二重線で消された最初の単語が読める箇所などもあって、このフレーズになる可能性もあったんだと思うと、手書きだからこその「永遠性」のようなものを感じました。もしも残されたものが完成品のテキストファイルだけだったら、その創作の過程は誰にも知られず失われていたかもしれないからです。

自分でエッセイを書いている時も、線で消した最初の言葉が実はいちばん素直でよかったりもしますし、悩んだ軌跡というのも大事な記録なんだと思います。


― 日頃デジタルツールに慣れているとやっぱり手書きは面倒だと感じる人も多いと思います。上白石さんのように手書きを楽しむための秘訣があれば教えてください。

そうですね、手書きをしたいけどちょっと面倒だという人には、お気に入りのペンを持つことをおすすめします。私の場合、いいペンといい紙があると、「これで何を書こうかなあ」とそれだけで幸せいっぱいになります。ペンが紙の上を滑る感覚ってそれだけで気持ちがいいものですから、「何を書きたい」以前に「このペンで書きたい」が勝っていることもあるぐらいです(笑)。

誰かの筆圧ででこぼこにになった紙にふれるのも、人の温かみがあって私は好きです。手書きの文字にはそれを書いたときの気持ちまで残る気がするから、自分を見つめ直したり大切な人に思いを伝えたりするには、やっぱり手で書くって大事なことだと思います。

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※本インタビュ―記事は、2025年12月17日付・朝日新聞朝刊広告特集を再編集したものです。



上白石 萌音 さん 俳優/歌手
2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞、同年NHK大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』で俳優デビュー。以後、ヒロインを務めた『恋はつづくよどこまでも』、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』等のドラマ、『舞妓はレディ』『夜明けのすべて』等の映画、『組曲虐殺』『千と千尋の神隠し』等の舞台やCMでも幅広く活躍。声優や音楽活動、著書『いろいろ』をはじめとする文筆活動でも評価が高い。日本アカデミー賞 新人俳優賞/主演女優賞、エランドール賞:新人賞、2020年度日劇賞 最優秀主演女優賞、「第30回読売演劇大賞」最優秀女優賞など受賞多数。

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