衝撃の太軸筆記具「ドクターグリップ」の開発秘話。

開発ストーリー

2021/10/08

衝撃の太軸筆記具「ドクターグリップ」の開発秘話。

太い軸にラバーグリップ付きの「ドクターグリップ」シリーズ。今ではすっかり筆記具の定番スタイルとなりました。でも30年前の発売当初、そのカタチは世の人々をとても驚かせたのです。そんなかつてない形状の製品が開発されることになったのには、ある理由がありました。製品化までわずか9カ月という短い期間で誕生した「ドクターグリップ」の開発ストーリーをご紹介します。

細軸のボールペンが主流の時代、
人間工学の視点から生まれたボールペン。

 「こんなにずん胴で不細工な形、しかも高価なボールペンなんて、本当に買ってもらえるだろうか? 」

 実はこれ、1991年の発売前に、パイロットの社内ではじめて「ドクターグリップ」を目にした人々の言葉です。「太い軸にラバーグリップ付き」というボールペンの登場は、それほど衝撃的な出来事でした。今でこそ太軸の筆記具は珍しくありませんが、「ドクターグリップ」発売以前の一般的なボールペンは、鉛筆のように細くてプラスチック製の軸のものが主流だったのです。

 では、そんな時代になぜ、斬新なデザインの太軸ボールペンが生まれることになったのでしょう?

 まだパソコンが普及していない90年代はじめ、大量の伝票を手書きするオフィスワーカーや筆記作業時間の長い速記者の中には、腱鞘炎など腕や首、肩の痛みに悩む人が多くいました。

 当時、事務作業に使われていた細くて硬いプラスチック軸のボールペンでは指が滑ってしまったり、ペンダコができたりする上に、強い筆圧で長時間の筆記作業をすると手に余計な力が入ってしまう...。そんな負担を少しでも軽減する筆記具として、医師とともに開発したのが「ドクターグリップ」でした。


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当時主流だった細い軸のボールペン。

 開発がスタートしたのは、1991年2月のこと。医師の研究により導き出された理想的な軸の太さと、「指が滑りにくくなるように軸全体をラバーで覆ってしまう」というアイデアをベースに開発が進められました。その「手に最も負担のかからない軸の太さ」は、13.8ミリ! 一般的な鉛筆や当時の細軸ボールペンは8ミリ程度ですから、なんと5ミリ以上も太いのです。

 従来よりもはるかに太くて、さらには「ラバーで覆われた軸」、そして「流線型のボディ」という、当時の開発者たちにとっては、はじめての経験だらけの製品づくりとなりました。

 
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見たこともないデザインの連続。
試行錯誤の末に生まれたラバー付きボールペン。

2月の末、製品設計担当者の手元にデザイン画が届きます。

 見たこともない太い軸、そして握りやすくフィット感のあるラバーで軸の全体が覆われたデザイン画に製品設計担当者は驚きました。

 デスクでの筆記作業用という使用目的に特化したため、携帯用に便利な「ノック式」ではなく「キャップ式」を採用。本体が転がるのを防ぐ突起付き専用キャップが考案されています。それ以外にはクリップもなく装飾もない、ストイックなまでにシンプルを極めたデザイン画をもとに、構想設計に取りかかりました。 ※構想設計とは、設計の基礎となる仕様(デザイン、構造、性能、費用)を決めるプロセスのこと。

 徹底して「疲れにくさ」にこだわった新製品は、当初社内で、医療用品をイメージして「クリニックボール」と呼ばれていました。

 設計室では、構想設計モデルをつくって検証してはやり直すという日々が繰り返されました。ようやく完成した構想設計モデルは、腕や首、肩のしびれに悩む人をはじめとする数十名のモニターによって検証され、8割の人々がその使用感と効果を認めたのです。冒頭でも紹介したように、はじめてだらけの製作に不安の声が多かったパイロットの開発者たちも、モニター調査の結果を見て、ホッと胸をなでおろしました。

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開発当初は「クリニックボール」というプロジェクト名で呼ばれていた。

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30年前、当時の少年に
未来を感じさせた「ドクターグリップ」。

 発売は1991年11月に決まりました。発売日に向けての仕上げ作業が急ピッチで進みます。今のようにパソコンではなく設計図面も手書きですから、短期間での生産準備は苦難の連続でした。

 本番生産へ向けての準備を進める中、どうすれば構想設計モデルの機能性を実現しつつスムーズに生産できるか、幾度も試作が行われました。その結果たどり着いたのが、ペンの軸全体をゴムで覆うのではなく、握る部分だけをシリコーンゴムとしたグリップの仕様でした。これが、今では大半のボールペンに採用されている「ラバーグリップ」が一般化するきっかけとなったのです。

 そして頭を悩ませることが、もうひとつありました。それは価格です。当時は80円前後のボールペンが主流でしたが、それまでになかった付加価値を搭載した筆記具ということもあって、1本500円という思いきった価格設定がなされたからでした。「この価格でお客様は本当に納得して買ってくださるだろうか…」。

 一方、ネーミングは、「クリニックボール」というプロジェクト名から、医師の協力のもと開発されたことにちなんで「ドクターグリップ」に決定。ボディの色は、医療用品をイメージした優しく落ち着いたカラーリングとしました。

 こうして、可能性は未知数ながらも機能に裏付けされた武骨なフォルム、軸の太さ、そして価格…、すべてが異例づくしのデビューとなったのです。


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左:新しい太軸ボディの試作品の金型設計図。右:完成形に限りなく近いフォルムのデザイン画。

 結果は、その数々の不安をぬぐい去るものとなりました。年間売上目標の30万本を大幅に超え、5カ月で100万本を記録するという大ヒット商品となったのです。腕や首、肩の痛みに悩む人向けにつくられた製品は、結果的に全ての人にとって「握りやすく」「書きやすい」筆記具として好評を得ることとなったのです。翌年には学生をターゲットとしたシャープペンシルも発売されて大ブレイク。以降、「ドクターグリップ」シリーズは多岐にわたってシリーズ展開してきました。

 「小学3年生の時に初めて買ってもらったシャープペンシルは、当時の僕らに未来を感じさせてくれました」「出会いが衝撃的でした。思い返せば早数十年。愛着は不滅です」「社会人になって最初に使ったボールペン。以来十数年間愛用の大切なパートナーです」「亡き父から私、そして我が子へ。我が家の1本です」…、と多くの方々からあたたかいメッセージをいただきました。

 パソコンが普及してオフィスでの筆記具の使用頻度が減った今もなお、学生に人気のシャープペンシルをメインに販売本数を増やしてきました。世代を超えて人々に愛される「ドクターグリップ」は、2021年、30周年を迎えます。


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