「書く」と「描く」を行き来しながら、人の感性の奥行きに近づく
[川北 輝 さん / メディアアート]
2026/6/16
デジタル、アナログを問わずさまざまな媒体を活用したアートの可能性を追求するメディアアーティストの川北 輝さんをご紹介します。
デジタルなメディアにとらわれず、さまざまな媒体を用いて平面、立体、インスタレーションの3種のジャンルによる作品で、人の五感に働きかけるメディアアーティストとして、2023年から活動しています。平面作品では、絵具やレジンなどを用いて、流れや植物のフラクタルを表現しています。「川」という字が入っている名前の通り、子どもの頃から川遊びが好きでよく魚をとっていました。水面の波紋や光の反射、どこまでも続く青の世界が好きで、作品に取り入れています。立体作品では、CGや3Dプリンターなどの技術を活用して3次元だからこそ伝わる作品を表現しています。例えば、ブラックライトを当てると光の移ろいが楽しめる作品などをつくってきました。また、インスタレーション作品では、いま「メディアアート×お化け屋敷」をテーマに100Mの空間のインスタレ―ションに挑んでいます。
美術系大学の専任講師として研究・創作活動もしているため、普段から論文や専門書を読んだり、AIと対話したりしながら、人とテクノロジーの関係性について考えています。その中で、論理的に整理した方が伝わりやすいものは「論文」や「文章」としてまとめ、一方で、非言語的な感覚が本質に近い場合は、「視覚芸術」や「音」、「インタラクション」として表現します。また、考えが煮詰まったときは、コンピュータの前から離れることも大切にしています。海辺を散歩したり、いろんな場所を旅行して、例えば温泉に行ったりすると、頭の中でバラバラだったものが自然につながる瞬間があります。景色をぼんやり眺めていると、「こういう表現ができるかもしれない!」と突然アイデアが浮かぶことも多いです。創作のアイデアは、日常のさまざまな体験や思考の積み重ねの中からこそ生まれてきます。
人の感性に響くことと、驚きや学びにつながる体験を生み出すことです。作品づくりでは常に、「人の心にどう届くのか?」「心が少し動くものにしたい」と考えています。そして実際に体験してもらうことで、自分が想像していた感覚と、鑑賞者が受け取る感覚の違いを確かめます。そこには、研究に近い面白さがあります。人の五感に働きかけられる点が、メディアアートの醍醐味です。視覚だけではなく、音や光、動き、インタラクションなどを組み合わせることで、「なんとなく惹かれる」、「なぜか心が動く」といった、言葉になる前の感性に触れることができます。だから、私は視覚芸術だけにとらわれず、できるだけ多様な表現に挑戦したいと思っています。また、アートである限りはテクノロジーが先行し過ぎてもよくないため、技術そのものを重視するのではなく、技術を通して変容される「感性」を大切にしています。
私にとって「かく」という行為は、「書く」と「描く」を行き来しながら、人の感性と向き合うための大切な創作活動です。論文や文章を「書く」ときは、客観的なデータや自分の中にある考えを整理しながら、「テクノロジーは感性をどう変化させるのか」といったテーマを言葉によって明確にしていきます。頭の中の曖昧な感覚を、少しずつ言葉として形にしていくイメージです。一方で、作品を「描く」ときは、言葉だけでは伝えきれない感情や空気感、体験そのものを表現しようとしています。色や形、光、流れ、音といった要素を用いながら、作品に落とし込んでいきます。私にとってアートは、上手く言語化できない感性を探る行為。だから、液体のゆらぎや光、流れのような偶然性を含んだ表現に惹かれるのかもしれません。「書く」と「描く」の二つを行き来することで、言葉だけでも、作品だけでも辿り着けない、人の感性の奥行きに近づけるのではないかと感じています。
私の創作活動の原動力は、「感性インフラストラクチャー(感性インフラ)をつくる」というビジョンです。感性インフラとは、人が何かを感じたり、想像したり、表現したりする力を支える環境や仕組みのこと。誰もが本来その力を持っていながら、それを中長期的に引き出す環境や適切にアップデートできる仕組みはまだ十分に整っていません。だからこそ、テクノロジーやアート、社会実装を通じて感性を支える土台をつくりたいと考えています。この感性インフラの実現に向けて、アート作品制作や研究、教育、社会連携など、さまざまな活動を循環させていくことで、私自身も想像力と創造力の高まりを実感しています。2026年は、研究室主催のイベントとして、「第1回 世界想像×創造コンテスト」を実施。皆で未来を想像し、そのゴールに向かって創造していけるような活動をこれからも続けていきたいと思います。
photoトップメイン:龍と神社をモチーフにつくった約3.5mの龍神。「共鳴手水舎」というデジタルな手水舎作品の筐体部分に彫られた文字で、龍にまつわる日本のことわざを意味している。 photo1:感性の変化を川の流れに見立てた作品シリーズの初期作品「Flow of River #1」。 photo2:川北がインスピレーションを受ける自然のイメージで、画像は島根県にある「稲佐の浜」。photo3:子どもの頃に川で遊んでいたときの記憶をもとにして2025年に制作した作品「塩焼 ―2025―」。 photo4:UNKNOWN ASIA 2025に出展した「波龍」という作品のもとになったラフスケッチ。 photo5:「共鳴手水舎」の文字部分のクローズアップ。
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