かくことが好き。そう思わせてくれる道具たちの魅力が創造力の源
[もこ字練習帳 さん / 手書き文字]
2024/03/15
万年筆やガラスペンを使ってまるでフォントのような文字で書写をしている、もこ字練習帳さんをご紹介します。
主に万年筆を使って、フォントのような文字で書写をしています。マス目にきっちり並んだフォントのような文字でありながら、万年筆で1文字ずつゆっくり丁寧に書くことで生まれる線のゆらぎやインクの濃淡が、アナログ感を出してくれて、きっちりしすぎず、間の抜けた感じになるのが気に入っています。実は、子どもの頃から絵を描くのは好きでしたが、文字を書くのはずっと苦手でした。「字がキレイだとちゃんとしている」といったように人間性を測るものさしになってる気がして......。でもある時、通販で届いた荷物に添えられた手書きのメッセージがとてもキレイで、「字はキレイなだけで価値がある」と感動したんです。文字も絵の一部だなと発想を転換して、それが字の練習を始めるきっかけとなりました。
もともと本を読むのが好きで、美しい詩や小説の一節を読んではっとした時、心に響いた時、書きたくてたまらなくなります。文章を黙読するだけよりも、実際に手で書くことで形も音もなぞれるような、よりその文章を味わえるような気がします。また、文章に合う色で書きたくて万年筆インクを何十色も揃えています。逆に新しく手に入れたインクの色に刺激を受けて、「この色であの文章を書きたい!」となることもあります。
書く文章よりも、前に出過ぎたり後ろに引いたりしないように、文章の挿絵になるようなつもりで主張をせずに、できるだけ静かに線を引くことを心掛けています。良い万年筆は、力まずに頭から終わりまで同じ太さの線を引かせてくれて、静かな揺らぎをもたらしてくれます。作曲家よりも演奏家、人間じゃなくてタイプライター。そんな気持ちで書いています。パターンアートを描くこともありますが、その時も自分の気持ちはしまっておいて、無心で描くことにしています。
私にとって「かく」ことは、生活の中で何よりあたりまえのことであり、一生いっしょにいてくれる存在です。もともと絵を描くのは好きでしたが、一生描き続けることはできないと思っていました。そんなに上手じゃないし、きっと仕事にはできない、大人になったら普通に働かなくちゃいけないんだろうなって。美大を出て働くようになってから、描くことを一度やめてみたんですけど、「人生ってすごく暇で長いなー」って初めて思ったんです。絵を描いてる時は「人生って短くて時間がない」って思っていたのに。それで、描くことをやめるのをやめました。下手でもお金にならなくても一生描いていようって。そしてその後、字を書く楽しさに目覚め、万年筆にも出会いました。大人になってからこんなに好きになれるものに出会えるんだって嬉しかったです。幸い今では、「かく」ことでお金をもらえることもあります。そして、字を書き始めてからご縁をいただいた今の職場は、万年筆屋さんです。「かく」ことによって、幸せな生活をさせてもらっているなと感じています。
一番は「かく」ことが好きだという気持ちですが、万年筆やガラスペン、インクや紙など文房具の魅力が大きいです。表現したいことがあるというよりは、紙やペンとずっと触れ合っていたい、ペンが紙をなぞる感触をずっと味わっていたいです。だから私にとって創造力の源は、そんな風に思わせてくれる筆記具や画材など道具の魅力なんだと思います。美大時代、油絵の具は昔は画家自身が原料から自作するものだったと聞いて、私には無理かも......と思いました。そんな時代に生まれていたら、絵も字もかかなかったかもしれません。絵の具を混ぜて理想的な色をつくるのも苦手でした。一方で、万年筆インクは色が完成している上、バリエーションも豊富で、それぞれに哲学やストーリーもあって大好きです。書いても書いても興味が尽きることがありません。
photoトップメイン:リズムがいい文章は、気持ちのいいところで改行をしながら書いていくと、全体がちょうど四角形にバランスよく収まる。 photo 01:その日の気分で、万年筆やインクの色を選んで作品を書く。 photo 02:40色を超えるインクのコレクション。万年筆やガラスペン、万年筆用の紙もたくさん揃えている。 photo 03:文章そのものよりも字の主張が強くならないよう、静かに線を引くように心掛けている。 photo 04:万年筆は、書き出しから書き終わりまでインクが途切れることなくたっぷり出て、同じ太さで文字を書くことができる。 photo 05:道具から受けるインスピレーションは大きく、新しい道具を買うと、書きたい! という気持ちが湧きあがる。
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