文具王がPILOTの名品に迫るコーナー。第10回目は、自分で選んで組み立てる筆記具「ハイテックCコレト」について。 これまで紹介してきた名品の魅力は、設計者・デザイナーが考え抜いて作り出した、高度に洗練された仕組みやカタチの「完成品」の魅力だったと思います。しかし今回の主役は少し毛色が違います。あえて未完成な状態で店頭に並び、本体とレフィルを自分で選んで組み立てることで、自分だけの完成形をつくる。ユーザー自身が「完成させる」魅力が詰まった「カスタマイズペン」という新しいジャンルを生み出した画期的なペンです。
カラフルなペンが筆箱からあふれた時代
考えてみれば、ボールペンの色やボール径がこんなに豊かに選べるようになったのは、それほど昔の話ではありません。ゲルインキが登場する以前、ボールペンといえば油性で、色はせいぜい黒・赤・青、たまに緑が加わる程度。それが、1980年代半ばに生まれたゲルインキの登場で一変しました。鮮やかな発色のインキを作りやすく、しかも極細にできる――技術的な背景は第4回のハイテックC編で書いた通りです。結果、色数は爆発的に増え、ハイテックCだけでも最盛期には40色を超えるカラーが店頭に並びました。
学生たちの筆箱は、当然のように膨張します。気に入った色を一本、また一本と買い足すうちに、カンペンケースはフタが閉まらなくなり、やがて布のペンポーチへ。そのポーチもパンパンに膨れあがる。カラフルなペンをたくさん持ち歩きたい、でも、かさばる。楽しいけれど悩ましい。1つのペンポーチには収まりきらず、複数持ち歩く人も出てきました。
一方その頃、多色ボールペンはどうだったかというと、黒・赤・青を束ねた油性のビジネス用がほとんど。単色にはあんなに可愛い色が揃っているのに、ゲルインキの鮮やかさを一本にまとめる選択肢はありませんでした。一般的にゲルは油性よりインクをたくさん使うため、通常はレフィルが太く、何本も束ねれば軸はどんどん太くなってしまいます。多色化とゲルインキは、もともと相性の難しい組み合わせだったと言えます。(特にゲルインキボールペン登場当初、筆記距離が短いことに対する抵抗感は、ユーザーよりもむしろ業界内の人達の間で強かったように思います。)
「山ほどあるカラフルなペンの好きな色をコンパクトにまとめられないか」。コレトは、まさにその答えとして現れました。
「選んで組み立てる」という新形態
コレトの発売は2005年。中身のレフィルは、まさにあのハイテックCの極細ゲルです。空っぽのボディに、10色×ボール径2種(0.3mmと0.4mm)の計20種の中からレフィルを選び、頭のフタを開けて上からポンと差し込めば、自分だけの多色ペンのできあがりです。とはいえ発売当初は2色タイプのボディしかなく、今から考えれば多色と言うには少しもの足りない気もしますが、20種の中から好きな2本を組み合わせることができるというだけでも圧倒的に選択肢の広い、業界初のシステムです。単色ペンを選ぶのとは全く違う楽しさでした。色とりどりのレフィルが詰まった店頭什器を前に、店頭で何度も何度も芯を取っては戻し、組み合わせを悩んだあげく、結局1本では収まりきらず、コレトを何本もペンケースに入れたのを覚えています。
いまでこそ「選んで組み立てるペン」は複数のメーカーの製品が並ぶ定番ジャンルですが、その歴史は意外に浅く、コレト以前には、ペン売場で「自分で組む」ことなどほとんど考えられませんでした。実際、コレトの後を追うように他社からも同じ仕組みのペンが相次いで登場し、市場はひとつのジャンルとして育っていきます。その出発点が、このコレトなのです。
このとき芯径が0.3mmと0.4mmの2種類で、0.5mm芯が含まれなかったのは、ある意味ではインキの減りが油性よりも早いゲルインキのレフィルの軸を細くする際に、減りの早さを少しでも抑えるという意味があったのかもしれません。今では0.5mmも選択肢にありますが、商品名が「ハイテックCコレト」であって、(ハイテックCの回でも紹介したとおり、Cが付くのは0.5mm未満の激細芯の時だけです)当初は激細芯(0.5mm未満)しか搭載するつもりがなかったのがわかります。もちろん、2色といわず3色、4色、と組み合わせて使いたい、と思うのは自然な流れです。その後3色用ボディが2007年、4色用が2009年、5色用が2010年と、段階的に多色化し、シャープユニットなどが登場して、ガジェット感満載の多機能筆記具として、これ一本で様々な用途やシーンに対応できるようになっていきます。
現在のラインアップは、本体が2色用から5色用まで。ちょっとリッチな上位版「コレト500」「コレト1000」(いずれも4色用)もあります。レフィルは0.3/0.4/0.5mmの3径×レギュラー15色に、0.4mm限定のパステル・メタリックの12色を加えた全33色。シャープユニット(0.3/0.5mm)や繰り出し式の消しゴムユニットまで含めると、選べるレフィル類は66種類にもなります。
スライドレバーがインク色そのもの
コレトのレフィルは、独特な形状で、後端にスライドレバーがくっついた状態で販売されています。このスライドレバーはもちろんインクと同じ色になっています。普通の多色ペンにも色分けされたノックは付いていますが、それはあくまで本体側の「枠」の色。底に収まるべき色は最初から決められています。しかしコレトはレバーがレフィル自体にくっついているので、どのレフィルをどこに挿しても、レバーの色=出てくるインクの色です。当たり前のようでいて、これは画期的なアイデアでした。
スライドレバーそのものがレフィルと一緒に交換されることでできることは、副産物として様々な遊びも生みだしています。基本形としては、ペン先のチップの種類によって形状が異なっていて、オリジナルのチップのスライドレバーが、丸い山形なのに対し、シナジーチップ採用のメタリック・パステルのレフィルは直線的な形状が基本です。しかし限定品や、各種キャラクター・ブランドとのコラボなどの際には、星型、ハート型、キャラクターモチーフなど様々な形状の特別仕様になることがあります。私は限定レバーがもったいなくて、折らないようにそっと抜いて、別のレフィルに挿し替えて使ったこともあります。こんな細部で遊べるのもコレトならではです。
ちなみに、大変細かいことですが、このスライドレバー、触ってみるとグラグラしていて、なんだか頼りないと思いませんか?とくにシャープユニットのレバーは全く首が据わっていません。パッケージから取り出した時にはなんだか不安に感じますが、不良品でも設計ミスでもありません。これは、スライダーを押し下げた際に、スライダーは、本体内部でわずかに内側に倒れることで内部構造に引っかかってロックされる仕組みのため、実はこのスライダーはパイプに対して動いて角度が変化することが必要、さらにいうと、レフィルの後端を完全に塞ぐと空気が入らなくなってインキが出なくなるので、適度にスキマが必要。ということで、この絶妙なアソビがあるんですね。
ここでひとつだけ注意。ハイテックCコレトのレフィルは、多くの多色ボールペンが採用するボディを中央で分離して前から抜き差しする方式と違って後端のキャップを開けて抜き差しする方式です。ボディの真ん中にネジの継ぎ目があるので、つい中央で分解して前からレフィルを入れたくなりますが、レフィルを前から無理に引き抜こうとすると破損する場合がありますので気をつけましょう。
太さ違いからシャープ、消しゴムまで、一本に
コレトの自由は「色」にとどまりません。同じ黒でも、0.3mmと0.5mmを両方同時にセットできます。たとえば他人に読ませる報告書類や伝言メモ、署名には0.5mmを、手帳に細かく書き込むには0.3mmをと、芯径違いの同色を用途で分ける、といった使い方もコレトならではの構成です。
ユニット類も強力です。シャープユニットは0.3mmと0.5mmの2径があり、さらにノック式の極細消しゴムを内蔵する消しゴムユニットまで用意されています。替芯と同じ感覚で消しゴムを差し替えるペンなんて、私の知る限りコレトだけ。つまり「シャープ0.3+シャープ0.5+ノック式消しゴム」という、もはやハイテックCを無視した、完全にシャープペンシルな一本さえ組めてしまうのです。(現在は廃番ですが、かつては感圧式画面用のタッチペンユニットもありました。)
組み合わせの自由は、使い方の発想ごと広げてくれます。たとえば私は、青・赤・緑で線や文字を書き分ける齋藤孝先生の「三色ボールペン方式」の実践者です。かつてはパイロットから齋藤先生監修の青・赤・緑の3色ボールペン(FEED-GP3)が発売されていたこともありますが、最近の多色ペンの新製品は、緑を外した黒・赤・青の3色構成が主流で、4色で作られること自体少なく、緑派としてはなかなか世知辛い状況です。でもコレトなら、青・赤・緑はもちろん、独自の配色ルールが簡単につくれます。暗記学習で赤透明シートを使うなら、実はボールペンは赤よりオレンジやピンクの方がきれいに隠れるというのは今では受験生の常識ですが、赤の代わりにオレンジを挿すだけで対応できますね。これも登場した時には画期的な「裏技」でした。
組み合わせは手帳に最適。ただし、少し長い
極細ゲルを好きな配色で組み合わせて1本で携帯できるコレトは、手帳との相性が抜群です。ただし正直に言うと、コレトは普通のペンより少し長い(4色用で収納時の全長約149mm)のが玉に瑕です。通常の多色ペンと同程度の長さのレフィルの後ろにスライドレバーが付き、さらにその後ろに可倒式のフタがあるという構造上、どうしても後ろが伸びる。重心もやや後ろ寄りになります。
実はこれ、便利に進化した結果、しかたなくこうなった面もあります。このフタ、当初は本当に平たい板状で、開閉するにはこのフタの端のわずかに飛び出した部分に爪をかけて引き上げる必要がありました。難しい仕組みではありませんが、たとえばネイルアートをしている人などにとっては操作しづらいのは否めません。そこで現行品は、この開閉機構に「ポン・デ・オープン」という愛称の新方式を採用し、突出したキャップ部分を親指の腹で横に押すことでポン!と開くようになりました。このためボディは少し長くなりましたが、その分レフィル交換はあきらかに楽になりました。(上位版の「コレト1000」では、フタの開閉ボタンが、バネ仕掛けを内蔵していて、操作感がグッと良くなっています。4色ボディですが、全体に細身のシルエットで、特に落ち着いたマットな質感のブラックは私のお気に入りです。)
本体軸全体も、初期のモデルに比べると、前軸が太くなっていて、全体的には初期モデルよりボリューム感があります。これは推測ですが、初期モデルにおいては、なるべく細く見せることが重要だったのではないかと思います。グリップもボディに貼り付くようなシリコーンの多重成形によるもので、独特の形状には正直賛否ありましたが、現行モデルは円筒形のストレートグリップに、細さを追求した2色モデルとコレト1000は思いきってグリップ無しというシンプルな方向に変わっていて、結果的には使用感がぐっと向上しています。
機能的に特長のある形状としては、シャープユニットの指かけが大きく張り出しています。芯を出すのにしっかり力をかけてノックする必要があるからですが、ちょっと違和感があるくらい出ているので、気になる場合があります。普段クリップをポケットなどに引っかけないのであれば、クリップの隣に配置すると、飛び出し部分が目立ちにくくなるのでおすすめです。
レフィルを選ぶ楽しさ──マイベストコレト
ド定番の色構成でよければ、多色ボールペンとしては完成品の「ジュースアップ3」(黒・赤・青)や「ジュースアップ4」(黒・赤・青・緑)という選択がコンパクトでコスパにも優れ、シナジーチップ搭載で、書き味も申し分ないのでおススメです。しかし、コレトは、そこから先の「自分だけの構成」を組むためのペン。どのレフィルを挿すか迷うところからが、コレトの醍醐味ですから、思い切っていろんな組み合わせにチャレンジしてみたいところです。
といいつつ、私も今回、記事を書くにあたって久しぶりに什器の前に立って悩み、普段使っていなかったレフィルもあれこれ試したのですが、正直に告白すると、不覚でした。2019年にパステル・メタリック・蛍光カラーが出ているのは知っていましたが、(蛍光カラーは2024年12月で販売終了)もっと早く使うべきでした。これらのシリーズは、ジュースアップと同様のシナジーチップを採用することで、細いのに濃厚な発色が抜群です。メタリックやパステルは紙の色にかかわらずはっきりした筆跡が楽しめるので、この点においても、やはり単なる多色ペンとは言えない変幻自在の表現力の強さがあります。
せっかくなので、私のおすすめの組み合わせをいくつか挙げてみます。
・齋藤式+読書セット4[赤0.4+青0.4+緑0.4+シャープ0.3]
客観的に最重要は赤、まあ重要は青、主観的に面白いところは緑。資料を色分けし、シャープでメモ書きもできる。個人的には理想的な1本。スリムなコレト1000に入れて普段使いに。
・受験生セット3[シャープ0.5+オレンジ0.4+赤0.5]
ノートはシャープで、暗記したい語句はオレンジで(赤シートをかぶせるときれいに隠れる)、丸付けは赤で。
・極細手帳セット4[ブルーブラック0.3+ベビーピンク0.3+アップルグリーン0.3+クリアブルー0.3]
――とにかく細く、小さく。予定の書き込みも訂正も、あえて定番カラーを外すことで、手書き部分がわかりやすいのでかわいいだけじゃなく案外実用的。スリムなコレト500がオススメ。
・カラフルセット5[ベビーピンク0.4+アプリコットオレンジ0.4+パステルグリーン0.4+クリアブルー+パステルバイオレット]
――あえてレギュラーカラーとパステルカラーから、色のバランスを見てふわふわしたやわらかい組み合わせ。ペンケースに入れる2本目としてなら、おもいきり色で遊ぶのも楽しい。
やはり濃厚な顔料インキに「シナジーチップ」が採用されたことで、表現力の幅がぐっと拡がりました。シナジーチップの書き心地の良さについてはまた別途しっかり書きたいところですが、ここまで来たらコレトのレギュラー色にも採用を検討してほしいところです。(その場合はジュースアップコレトになってしまうのか?)そして個人的な夢を言えば、いつかフリクションのレフィルが加わってほしいとか、金属軸の本格的な高級ボディが出てほしい⋯ なんて思っちゃいますね。
選んで組み立てるというアイデア
振り返れば、コレトのアイデアは、これまでにない筆記性能とかではなく、「選んで組み立てる」という買い方、楽しみ方の提案でした。完成品を渡すのではなく、選ぶ楽しさと自分専用にカスタムされた製品を手にする喜びをユーザーに委ねる。多機能、万能、カスタマイズ――ガジェット好きにはたまらない仕掛けですし、何より、自分で選んで組んだ一本は、その瞬間から「自分専用」になります。発売当時既に社会人だった私は、携帯用万能ペンの構築を目指して新しい軸やレフィルが出るたびに買い足しては構成に悩みましたが、学生の頃の私が文具店でこれに出会っていたら、間違いなくもっとハマってお小遣いをつぎ込んでいたはずです。発売から20年。アップデートを重ねて選択の自由度を増したコレトは、これからも誰かの「世界に一本だけのペン」を作り続けてくれるでしょう。さて、あなたならどの軸に何を挿しますか。
(文・イラスト 文具王 高畑正幸)
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今回登場した製品:
多機能筆記具「ハイテックCコレト」 2005年発売
パイロットの製品情報はこちら 〉〉〉「ハイテックCコレト」で検索!
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高畑 正幸 さん 文具王 / 文房具デザイナー・研究評論家 1974年香川県丸亀市生まれ。小学校の頃から文房具に興味を持ち、文房具についての同人誌を発行。テレビ東京の人気番組「TVチャンピオン」全国文房具通選手権にて3連続で優勝し「文具王」と呼ばれる。日本最大の文房具の情報サイト「文具のとびら」の編集長。文房具のデザイン、執筆・講演・各種メディアでの文房具解説のほか、トークイベントやYouTube等で文房具をさまざまな角度から深く解説する講義スタイルで人気。 |
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