感想をおくる

美しいものに触れると、体内の澱がすっと消える――そんな感覚が創作の原点[谷垣 恵 さん / 韓紙工芸]

美しいものに触れると、体内の澱がすっと消える――そんな感覚が創作の原点
[谷垣 恵 さん / 韓紙工芸]

2025/10/15

      

韓国の伝統技法「韓紙工芸」をベースに、静かな心地よさを呼び起こす作品づくりを目指し、アートパネルやインテリア雑貨を制作する谷垣 恵さんをご紹介します。

あなたの創作活動について教えてください

韓国の伝統技法「韓紙工芸」をベースに、和紙や韓紙を組み合わせてアートパネルやインテリア雑貨を制作しています。現在力を入れているのは、オリジナル文様「花影」を用いた作品。花びらのようにも波のようにも見える文様を厚紙に描き、切り絵の要領で切り出してパネルに貼り、その上に和紙や韓紙を重ねることで、レリーフのように文様が浮かび上がる表現に仕上げています。今後は、この技法をランプやお盆、タンスなどのインテリアにも応用していきたいと考えています。

創作のアイデアは
どのように生まれてくるのでしょう?

美術館や本、ネットなど、どんな媒体であっても、直感的に美しいと感じるものに片っ端から触れて、心惹かれた部分をメモします。そのとき、「なぜ美しいのか」を深く考えながら書き出すことが、作品のアイデアにつながります。たとえばオリジナル文様「花影」は、オーブリー・ビアズリーの繊細な線画に触れたことがきっかけです。縄文文様に通じるような美しい線画を求めていたところゼンタングルに出会い、自分なりに作ってみたいという気持ちが高まったことから生まれました。

作品を創る上で
心掛けていることを教えてください

「よりよくするには、どうすべきか」と考え続けることを、常に心掛けています。線画を描く際は、花びらの大きさ、紙・ペンの素材を吟味し、糊を作る際には、水や小麦粉の種類、加熱時間や火加減をいろいろと試し、紙を貼る際も、力加減や糊の量を意識します。比較的誰でも一定レベルに達しやすい紙工芸の技術だからこそ、細部までこだわり尽くして作品を完成させたい。これは、師匠である叔父の教えでもあります。

あなたにとって「かく(書く・描く)」こととは?

雑念を振り払える時間です。考えごとや観察をしていると、無関係な思考に飛ぶことがありますが、素敵だと思ったことや文様、思いつきを「かく」ことで、目の前の対象に意識を集中してその行為に没頭することができ、不思議とポジティブな気分になれます。この集中と心の整理が、私にとって非常に大切な時間です。

創造力の源は何ですか?

直感的に「美しい」と感じた原体験を再現したいという思いです。中学1年生の冬、幼なじみの家族に連れられて森美術館の『小谷元彦展:幽体の知覚』で作品を見たとき、体内の澱がすっと消え、ひんやりと心地よい感覚を得ました。その後、日本庭園や神社、美術館でも似た感覚を得ることがあり、こうした経験が創造力の源になっていると感じています。正直なところ理由は分かりませんが、この感覚を作品に込めたいと創作活動に取り組んでいます。

photoトップメイン:オリジナル文様「花影」を施し、韓紙にアクリル絵の具と漂白剤を混ぜたものを散らした作品。 photo1:「花影」と漂白剤でスパッタリングをしたパーツを合わせたトレー。 photo2:美しいと感じたものを書き留めたアイデアスケッチ。 photo3:文様を厚紙に描き、切り絵の要領で切り出していく。 photo4:M25号サイズの作品の下書き作業。 photo5:塵を食べるチャタテムシをモチーフとした作品。

谷垣 恵 さん
谷垣 恵 さん
韓国の伝統技法「韓紙工芸」をベースに、わびさびを感じる瞬間のような――体の芯の温度がすっと下がるような、静かな心地よさを呼び起こす作品を目指し、アートパネルをはじめインテリア雑貨を制作。韓紙工芸作家の祖父・叔父のもとで約3カ月修行し、祖父が築いた脱色技法や、伝統を感じさせつつ現代の生活に馴染む叔父の作風から学びました。その経験を土台に、アクリル絵の具や漂白剤などを用いた素材・技法の実験を重ねながら、和紙と韓紙の持つ静謐さや柔らかさを引き出しつつ作品を創作。「掴めそうで掴めない美しさ」「見えそうで見えない儚さ」をテーマに、文様や紙の重なり、光の角度で表情が変わることを意識した新しい表現を目指しています。

この記事をシェアする