2021/12/24
日本初! 対馬に漂着した海洋プラスチックから生まれた油性ボールペン。
「海洋プラスチックごみ」から生まれた油性ボールペン「スーパーグリップG オーシャンプラスチック」。海岸に打ち寄せられた海洋プラスチックごみのリサイクル素材を使った筆記具としては、日本で第1号のペンです。いま話題の海洋プラスチックの現状と、この筆記具が世に出るまでの物語をたどります。
いずれ魚の量より多くなると予測される海洋プラスチックごみの問題。
美しい海を取り戻すためにパイロットができること。
世界中の海で大きな問題となっている「海洋プラスチックごみ」について既にご存じの方も多いと思いますが、いま、一年でどのくらいの量が世界の海に流出しているのでしょうか?
そのごみの量は、実に年間500〜1300万トン※と推計されています。驚くことにそのごみは、漁網など漁業関連のものや海辺で直接捨てられたものだけではありません。川や陸など私たちが暮らす街から海へ流出しているものが非常に多く、その量はなんと全体の約8割※にも及びます。
海へ流れ出たポリ袋やペットボトルなどのプラスチックごみは海中を漂って紫外線や海水にさらされ、やがてマイクロプラスチックと呼ばれる極小の粒子となって、数百年も自然分解することなく海を漂い続けると考えられています。
こうした海洋プラスチックごみやマイクロプラスチックは、ただ海を汚染するだけでなく、魚類や海鳥など海の生態系へも甚大な影響を及ぼし、さらには、海産物という食を通してわたしたち人間への悪影響も懸念されています。年々増え続ける海洋プラスチックごみは、2050年には魚よりも多くなると予測されるほど深刻な問題なのです※。
※出典:環境省 「海洋ごみ問題について」(2020年), 「プラスチックを取り巻く国内外の状況」(2021年) / Jambeckら:Science(2015年), Eunomia(2016年) Plastics in the Marine Environment(Third International Conference on Marine Debris(1994年),GESAMP(1991年), Results of the International Coastal Cleanup (ICC) (2012年)等から概算)
暮らしの利便性と引き換えに深刻さを増している「海洋プラスチックごみ」問題は、いまや世界的な会議でも「自然環境」や「循環経済」に並ぶテーマに挙げられるほど重要な課題となってきました。
海岸に打ち寄せられたプラスチックごみは、紫外線にさらされ波にもまれるうちに細片化し、やがてマイクロプラスチックになって再び海を漂う。
筆記具にとってプラスチックは欠かすことのできない素材として長らく使われてきましたが、世の環境意識の高まりとともに、20年ほど前から大企業や官公庁でも環境に配慮した事務用品を求める傾向が顕著になり、パイロットでも、家電製品の樹脂部品や工場から出た端材による再生樹脂を素材に使った環境配慮商品をたくさん開発してきました。
そして2020年春、海洋プラスチックごみをテーマとした筆記具の企画開発に乗り出したのです。
海岸に漂着した海洋ごみ。日本に漂着するごみの量は人工物が自然物を上回り、その多くがプラスチックだという。
リサイクル事業を手掛ける企業・テラサイクルジャパン※とともにパイロットが取り組んだ新企画において、原料となる海洋プラスチックごみが回収されているのは、日本海の入口に位置する長崎県対馬市です。
※2001年、当時大学生だった創業者が立ち上げたアメリカのソーシャルエンタープライズ。「捨てるという概念を捨てよう」という理念のもと、世界20カ国以上で事業を展開。従来、リサイクルが困難とされてきたものを回収して、さまざまな製品に再生している。
対馬の海岸には、海流の影響もあって東南アジアや東アジアから年間約2〜3万㎥※もの海洋ごみが漂着。ボランティアの手によって1年間に回収・分類された約7000㎥のごみのうち、海洋プラスチックごみは約4800㎥にも上るといいます。
※情報提供:対馬市(2020年度のデータ)
「なんとかこの素材を筆記具に活かせないか」
パイロットの商品企画担当者は、テラサイクルジャパンを通して日本における海洋プラスチックの実情を深く知ることとなりました。しかし、海洋プラスチックによるリサイクル素材は筆記具に使われた前例がなく、製品として成立するかどうかはまったくの未知数。パイロットとしても、深刻化する海洋プラスチック問題に対してアクションを起こさねば、という強い思いで新たな試みをスタートさせたのです。
対馬で回収された海洋プラスチックごみでつくったペレット。着色はしておらず、さまざまなごみが混ざり合った色。
業界のタブーを味方にした素材の個性。
色ブレこそ、海洋プラスチック由来である証。
海洋プラスチックごみから生まれた油性ボールペン「スーパーグリップG オーシャンプラスチック」のボディには、バネと替え芯、グリップラバーを除くプラスチック部分にすべて再生樹脂が使われています。そのうち海洋プラスチックが使われている部分は、ペンを握る「先胴(さきどう)」と呼ばれるパーツで、10%が海洋プラスチック、90%が再生ポリプロピレンという配合比率でつくられています。
海洋プラスチックは海を漂いながら紫外線や海水にさらされるため、一般的な再生樹脂と違ってリサイクルしたときの強度がとても不安定で、製品としての品質を保つためには使用部位の検討や配合量の調整が必要となります。企画開発においては、強度など商品の安定性を考慮しながら試行錯誤を繰り返した末、ベストな再生樹脂の配合にたどり着きました。
海洋プラスチックと乳白色の再生ポリプロピレンを混合してつくられた原料のペレット。
ところで、この先胴部分の樹脂は、まるでサンゴ礁が広がる南国の海をイメージさせる淡いブルーですが、実は着色したわけではありません。ポリバケツやプラスチック雑貨など、海辺に漂着したさまざまなごみと乳白色の再生ポリプロピレン材を混ぜ合わせることで、偶然生まれた色なのです。
また先胴部分をよく見ると、微細な黒い粒が混じっていますが、これも海洋プラスチック特有の現象。従来であれば不良品となるところですが、こうした現象は海洋プラスチック由来であることの証拠でもあるのです。
先胴部分の樹脂パーツは、海洋プラスチックそのものの色といえますが、それは同時に「商品の色ブレ」につながることを意味していました。
ペレットの原料として仕入れる海洋プラスチックは、漂着ごみを回収する場所や季節によって種類や量が異なります。さまざまなごみの色が混じり合うことによって、原料となるペレットの色味も変わってしまうのです。
「スーパーグリップG オーシャンプラスチック」の先胴部分は、製造ロットによって色味が微妙に異なる。しかしこれこそが海洋プラスチック由来である証。
企画担当者は思わず頭を抱えました。原料のペレットによってある程度の色ブレが起こる可能性は想定していましたが、まさかここまで色味が異なるとは思ってもみなかったのです。一般的に筆記具の生産においては、その時々でボディの色味が変わるという製品はなく、色味が異なる場合は「不良品」ということになってしまいます。
しかし、お客様に「この商品は、生産するたびに先胴部分の色味が変わってしまう」ということをご説明したところ、意外にも好意的に受け止める声が多く、「ロットによって色味が変わることこそ、むしろ回収された海洋プラスチックごみを本当に使っている証だ」と逆に評価が高まったのです。
海洋プラスチックから生まれたペンは
半年で50万本以上が人々の手に。
2020年冬に発売された「スーパーグリップG オーシャンプラスチック」は、徐々に市場やメディアでの認知度が高まり、2021年7月、イタリア・ナポリで開催された「G20環境大臣会合2021」の席上で、日本における海洋プラスチック削減の取り組みのひとつとして各国代表に配付・紹介されました。
そして環境意識の高い大手企業からの注文も増え、発売から1年が過ぎた現在、販売本数は100万本に迫り、多くの人々に受け入れられています。
海洋プラスチックから生まれたボールペンはこうして世に出ましたが、きれいな海を取り戻すためにできることは、もちろんそれだけにとどまりません。わたしたち一人ひとりにできるのは日常のなかのささいな取り組みかもしれませんが、その小さな積み重ねが、きっと10年後、50年後の大きな成果につながります。
持続可能な地球の未来のため、そして美しい海を取り戻すためにできる一歩を、身近な筆記具選びから始めてみませんか?
製品情報はこちら 〉〉〉「スーパーグリップG オーシャンプラスチック」
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