2024/10/10
生涯の愛を誓う結婚指輪をパイロットがつくっている理由。
どうしてパイロットが結婚指輪をつくっているの?
みなさんは、パイロットが「結婚指輪」をつくっていることを知っていますか? 玩具をつくっていることは以前の記事でご紹介しましたが、実は「結婚指輪」もつくっているのです。
書く道具である「筆記具」と身につける装飾品である「結婚指輪」はまったく違う分野ではありますが、実はパイロットならではの万年筆づくりの技術が、結婚指輪をつくる過程で活かされているのです。「ふたりの愛の証である結婚指輪」。パイロットがこだわるモノづくりをご紹介します。
万年筆の金ペン製造法を活かした独自の技術
1918年から自社一貫生産により万年筆をつくってきたパイロットは、工場内にペン先をつくるための溶解炉があり、金合金をつくる独自の技術と、それを加工する技術を築き上げてきました。
「宝飾品製造」が本格的に始まったのは、1970年頃。当時、事業多角化を目指す中、「万年筆づくりの技術を活かして、筆記具だけでなく新たな分野で何かを生み出すことができないか」と模索していたときに、ある社員が「万年筆のキャップを輪切りにしたら、指輪にならないだろうか?」とひらめいたのがすべての始まりだった、という嘘のような本当の話。
筆記具とまったく異なる分野に挑戦をすることは、一見無謀に思えるかもしれません。しかし、万年筆づくりで培った技術と経験には、品質の高さを求められる結婚指輪をつくるうえでの重要な要素が含まれていたのです。
自社工場で万年筆をつくり続けたその長い歴史から、金属の扱いに長けてきたパイロットだからこそ、指輪に合った独自の金属素材を開発し、指輪に美しい装飾を施すための新たな金属加工技術や設備を導入することに成功しました。しかし、その道のりは決して順風満帆に進んだわけではなく、数々の困難を乗り越えながら、パイロットの想いとこだわりが実を結び、特別な「結婚指輪」が誕生したのです。
万年筆も結婚指輪も、熟練の職人による手づくり
では、具体的にパイロットの結婚指輪はどのようにつくられているのでしょうか? 生産を始めた頃は、当初のひらめきにもあったように万年筆のキャップを輪切りにするイメージでつくられていましたが、現在は、より万年筆のペン先をつくる工程に近い形でつくられています。その製造工程を、万年筆のペン先の製造工程と比較しながら見ていきましょう。
万年筆のペン先づくりでは、金を主な材料とし、銀や銅などを配合して高温の溶解炉で溶かし、混ぜ合わせたパイロット独自の金合金をつくります。結婚指輪の場合は、プラチナを主な材料とし、銅などを混ぜ合わせてつくります。素材の組み合わせや配合量は製品によりそれぞれ変わりますが、つくり方は同じ。そして、できあがった合金を、特殊なローラーで何度も圧力を加えながら薄く板状に延ばしていく「圧延(あつえん)」という作業を行います。
万年筆の金ペンと結婚指輪、それぞれの素材となる金属を溶解炉で溶かしてつくった合金を、プレス機で薄く延ばすところまでは、ほぼ同じ工程であることがわかりますね。
工程が分かれるのはここから。ペン先と指輪それぞれに適した厚みまで、圧延によって薄く延ばした板状の合金を、万年筆はペン先の形に、指輪はドーナツ状に打ち抜いて製品のベースをつくります。その後、指輪は打ち抜いたドーナツ状のベースをリングの形に整え、さまざまなデザインの加飾を施します。これらの工程では、万年筆、指輪それぞれに熟練した職人の手によって、一つひとつ丁寧に仕上げていくのです。「結婚指輪」の基礎となる加工には、長年培われてきた万年筆づくりの設備と技術が活かされていることがおわかりいただけたでしょうか?
次のページでは、パイロットの結婚指輪づくりへのこだわりをご紹介します。
「ふたりの生涯と共にある結婚指輪」に求めること
パイロットの結婚指輪が1970年代に誕生してから50年以上が経ち、その間にさまざまな商品を生み出してきました。パイロットが目指したのは、「独自の素材を生み出せるパイロットならではのオリジナル素材」と「傷つきにくく変形しにくい、一生身につけ続けられる耐久性」という2つの特長を持った結婚指輪でした。
品質の高さを求められる結婚指輪のために、パイロットが独自に開発した2つのオリジナル貴金属素材があります。まず1つ目は、純プラチナで硬度の高い「UHP(ウルトラ・ハード・プラチナ)」というプラチナ素材です。
結婚指輪の定番素材といえば、純白や永遠というイメージのプラチナ。ところが、とてもやわらかい貴金属であるプラチナは、傷や変形に弱いという側面があるため、指輪にするためにはほかの金属を混ぜ合わせた合金にして硬度を高める必要があります。一般的には、Pt900(プラチナ90%)やPt950(プラチナ95%)といった素材が使われることがほとんどでした。しかし、パイロットがこだわったのは、限りなくプラチナ100%に近い指輪。しかも生涯身につける結婚指輪ですから、永く愛用しても傷に強く、丈夫なものをつくりたい。そんな想いで試行錯誤を重ねた末、1997年に極微量の化合物を混合することで、プラチナ99.9%の最高純度にして、一般的なハードプラチナの1.5〜2倍という高硬度のまったく新しい純プラチナ素材「UHP(ウルトラ・ハード・プラチナ)」の開発に成功したのです。
そして2つ目の素材は、プラチナと金を1対1で配合した「Ptau(ピトー)」です。プラチナと金は単体ではやわらかい素材ですが、混ぜ合わせて一緒(合金)にすることで非常に硬くなる性質があります。まるで「別々のふたりが一緒になり、絆が強くなる結婚」と重なるかのような性質に着目して、この金属素材開発に挑戦しました。
また、夫婦が互いに対等な存在であることを象徴するように、素材の配合も1対1にこだわりました。粘り強い研究開発と品質試験を経て、2つ目の新素材も製品化を実現することができたのです。この2つの素材を使ったパイロットの結婚指輪は他社ブランドと大きく差別化が図られています。
永く愛用するための耐久性を約束する2つの製法
もちろん、結婚指輪づくりにおいてパイロットがこだわっているのは、素材だけではありません。外出時だけに身につけるファッションリングとは異なり、一日中身につけていることが多い結婚指輪ですから、永く愛用し続けてもらえるよう、傷や変形に強い耐久性を高める製造方法にもこだわりました。
その1つが、万年筆のペン先づくりで培われてきた「鍛造(たんぞう)製法」です。鍛造とは、金属に負荷を与えることで密度を高めて硬度を上げる、伝統的な技法です。刀鍛冶師が熱した刀を何度も叩いて強い刃をつくり上げるように、ローラーに金属を何度も通して圧延することで繰り返し圧力がかかり、金属の密度を高めて素材を硬くすることができます。この作業においても、硬く強い金属に仕上げるために職人は手間を惜しみません。
そして、もう1つが指輪製造に初めて導入された継ぎ目のない「シームレスリング製法」です。一般的なリングは、細い棒状の金属を丸めて継ぎ目を接合する手法でつくられており、接合した部分の強度を確保できませんでした。しかし、パイロットが業界に先駆けて開発したシームレスリング製法は、鍛造製法で板状に延ばした合金をドーナツ型に打ち抜き、それを独自の技術で曲げ起こしていくため、継ぎ目がなく、高い耐久性と強度を実現することができたのです。継ぎ目がないことから「縁が切れない」とされ、縁起も良く「結婚指輪に最適」と一躍人気となりました。
素材から完成品まで、すべての工程に責任をもって
一般的に指輪づくりの工程には、素材づくり、指輪の形に成形、表面にデザインを彫る(加飾)、イニシャル等の刻印彫りなどがあります。多岐にわたる作業工程のため、分業で行われることが多いですが、パイロットでは、生涯を共にする大切な結婚指輪づくりのために、「一からすべてこだわり抜いてつくりたい」と考えています。そんな想いを込めて、合金づくりから完成まですべての工程を、熟練した職人たちの手によって一つひとつ丁寧につくっています。自社一貫生産へのこだわりは、万年筆づくりの精神と同じように結婚指輪にも深く息づいているのです。
「書く」道具以外のさまざまな領域でも、一人ひとりのライフステージに寄り添った最高のものづくりを、パイロットはこれからも行ってまいります。
製品情報はこちら 〉〉〉パイロットの結婚指輪「PILOT jewelry」
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