斬新な形状が印象的なシャープペンシル「2020ロッキー」(1985年発売)

2023/10/25

斬新な形状が印象的なシャープペンシル「2020ロッキー」(1985年発売)

 文具王がPILOTの名品に迫るコーナー。第二回目は、私の中学時代の相棒、2020(フレフレ)ロッキーについてお話しします。2020ロッキーは1985年発売の、フレフレ機構を搭載した高機能シャープペンシルで、価格は500円。現在は販売終了品です。

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【中学時代の相棒】

 現在はドクターグリップやモーグルエアーなどに搭載されていて、パイロットの高機能シャープペンシルの代表的な機構のひとつであるフレフレ機構が最初に登場したのは1978年。「ヤング2020(フレフレ)」という製品です。2019年に復刻版が販売されたので見た事がある人もいるかもしれません。当時は筆記具メーカー各社がシャープペンシルの芯の繰り出し方法を模索していた時期で、様々な方式が開発されましたが、現在まで続く方式はあまり多くありません。その中でこの振り出し機構は、パイロットが世界ではじめて商品化した方式で、オートマチック機構と並んで現在でもシャープペンシルのメジャーな繰り出し方式の1つとして多くの製品に採用されています。当時としては最先端の機構と機能性を表現した先進的なデザインを持つ画期的なシャープペンシルとして、業界に衝撃を与えたそうです。

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 しかし、私の印象に強く残っているのは、その7年後の1985年に発売された2020ロッキーです。フレフレ機構搭載シリーズとしては第2弾にあたる製品で、もちろんフレフレ機構が最大の特徴ではあるわけですが、当時小学校6年生の私は、フレフレ機構よりも、この断面が四角く、先端に行くほど尖った楔型のボディデザインに強く衝撃を受けたことを覚えています。この製品は、他の筆記具とは明らかに異なる、「文字を刻む道具」として私の目に映りました。

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 ROCKYという名の通り、ゴツゴツした印象があり、書き心地とは無縁のような、奇をてらった形状に見えますが、手に取ってみると、これが案外と手に馴染み、フレフレ機構の便利さと相まって、その後中学時代を通して最もよく使った相棒的シャープペンシルでした。

   見た目の印象通りだったのは、その極めて高い堅牢性で、私の人生で最も多くの文字を書いたシャープペンシルの1つでありながら、38年を経てもなお、後端のラバーパーツがとれた以外は、いまだ大きな不具合もなく使用できる状態で手元にあります。

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【フレフレ機構】

 ドクターグリップ等でお馴染みなので、フレフレ機構の便利さについては今さら語るまでもないと思いますが、1985年当時の私もすぐに慣れ、無意識に振って芯を出すのが習慣となりました。最近の高機能シャープペンシルの中では、オートマチックタイプが注目され、集中を切らさないためには、ノックをしないことが重要、といったイメージがありますが、私の場合は、むしろ定期的に小気味よくペンを振ることで、リズムを取ったり、固く握りしめていた手の力を一瞬リセットするような効果もあって、長時間書き続けるような作業では、フレフレのメリットも案外無視できないと思っています。

  フレフレ機構は、分かってみると案外単純で、軸に内蔵されたおもりを勢いよくチャック後端にぶつけることで、ノックするかわりにチャックを後ろから押し開いて芯を出すというものです。本体を振った勢いでおもりをぶつけるわけですから、振ったときにカシャカシャという音がするのは玉に瑕で、図書室のような静かなところでは気になる人もいます。また、通常の筆記姿勢でおもりが動くことはありませんが、中身が移動するのが苦手という人もいて、中には本体を分解してこのおもりを固定する人もいるようですが、先日発売された「ザ・ドクターグリップ」は、このフレフレ機構の静音化をした上で、さらにフレフレ機能自体をロックすることも可能な新機構を搭載しており、単に使用者の気持ちよさだけではない配慮もされるようになりました。

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【トリッキーなデザイン】

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 2020ロッキーのデザインは、パッと見ただけでも、筆記具の常識を無視しています。

 通常、筆記具のデザインは、親指・人差し指・中指の3本で作る三角形で軸を保持するため、円柱か三角柱、あるいはその2倍数の六角柱が基本です。しかしこの2020ロッキーは断面が四角形。しかも、前端に向かって直線的に細くなる楔型で、グリップ部分はその途中にあるので、滑ってほしくないグリップなのに前の方が細くなっています。これは、普通に考えたら実用品ではないように見えます。しかし、これを手に取ると、不思議なことにほとんど違和感を感じないのです。秘密は大胆な見た目の後ろにある、丁寧に設計された細部にあります。

 最も大きな特徴は、やはりこの直線的で鋭角的な形状です。見通しが良いだけでなく、ボディ全体が一点に収束する直線の集合で構成されているので、筆圧と意識を芯の先端に集中して、狙った場所に文字を強く刻み付ける印象があり、学生時代の私にとっては、そのイメージがなにより道具として頼れる印象でした。

 四角のように見えるボディは、よく見ると円錐型の4面を削り出した形状であることが分かります。 平面は4面なので、四角く見えますが、もともとの円弧が大きく残っているため、実際は、膨れた8角形に近い形状で、クリップが邪魔にならないように自然に持つと、中指の上に平面が乗るかたちになり、親指と人差し指は、斜めの円弧部分を押さえることになります

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 グリップ部分の円弧状の面には、滑り止めの溝が等間隔に刻まれていますが、この凹凸が触れるのは、親指と人差し指の腹の部分で、平面が乗っている中指の側面にはほとんど当たりません。親指人差し指はしっかりグリップしつつも、肉が薄く皮膚が擦れたりペンだこが出来たりしやすい中指側面に凹凸が当たらないので、見た目の角張った印象の割に、手に当たる感触は痛くありません。

 軸中央2か所の金属リングは、機能的な意味では不要な装飾ですが、先端の口金、後端のノック軸と同じ銀色で、この部分が一段細くなっていて、外観上はカラフルで四角いプラスチックの外装の内部に金属の太い棒が貫通しているように錯覚させる効果があります。たった2本の、薄い金属の輪によって、樹脂と金属の主従を逆転させ、全体的には樹脂製のボディであるにもかかわらず、堅牢なイメージを与えています。

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 リングの位置も絶妙で、手に持った時には、指先とみずかきの間、ちょうど手に触れない位置に入るため、筆記の邪魔にはならず、見た目には常にアクセントとして見える位置にあり、重心位置もだいたいこのリングの間あたりにあるので、視覚的にもとても安定感があります。

 大きな板状のクリップは、しっかりとした厚みがあり、クリップ本来の機能はもちろんですが、全体のスクエアで堅牢な印象を補強しています。前半分の長方形は、本体の平面部分と同じ幅で、全体に四角い印象を強調していますし、後ろの二叉部分の中に見える三角は、口金の三角と対を成していて、ボディ全体が楔型であることを強調しています。

 2020ロッキーは、材料の使い方も絶妙です。原色のポップな樹脂色と、硬い金属の銀色の対比が美しく、口金、リング、クリップ、ノック軸、ロゴマークは全て同じ銀色で揃えられ、配置のリズムは、このペンを握ったときに、銀色と原色が交互にバランス良く見えるように調整されています。

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 そして後端には黒いラバー素材でできた大きめの円柱形。力を入れて押しても、指あたりが柔らかで、硬く攻撃的な全体の印象に対し、柔らかく静的な形状。このパーツによって、楔が指す方向性がさらに明瞭になります。

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 まだスマホもガラケーもなく、1日の大半を学校や塾の机上で過ごした中学時代の私にとって、1日の間で最も長時間触れているものがシャープペンシルあり、その中でもお気に入りだった2020ロッキーは、その時期私が最も長い時間触れていた道具でした。いまでも2020ロッキーを手にすると、自然と芯先に意識が集中する感覚があって、少しキリッとした気分になります。あの時この相棒に出会えて本当に良かったなと今でも思います。

(文・イラスト 文具王 高畑正幸)



 


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今回登場した製品:
シャープペンシル「2020(フレフレ)ロッキー」※1985年発売 / 販売終了品

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高畑 正幸 さん 文具王 / 文房具デザイナー・研究評論家

1974年香川県丸亀市生まれ。小学校の頃から文房具に興味を持ち、文房具についての同人誌を発行。テレビ東京の人気番組「TVチャンピオン」全国文房具通選手権にて3連続で優勝し「文具王」と呼ばれる。日本最大の文房具の情報サイト「文具のとびら」の編集長。文房具のデザイン、執筆・講演・各種メディアでの文房具解説のほか、トークイベントやYouTube等で文房具をさまざまな角度から深く解説する講義スタイルで人気。
文具王・高畑正幸公式HP「B-LABO」
文房具総合Webマガジン「文具のとびら」



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