2023/06/05
俳優/創作あーちすと のん さん「私の好きな表現の根っこには『かく』ことがあります」
俳優/創作あーちすと のん さん インタビュー
ミュージシャン、イラストレーター、映画監督、俳優......"創作あーちすと"として、さまざまなクリエイションを生み出しているのんさん。どの活動においても「かく」ことは欠かせないと話すのんさんにお話を伺いました。
「書き味のよいゲルインキボールペンを愛用しています」
― 幅広く活動されている、のんさんですが、どんなときに「かく」のでしょうか。
私にとっては、どの活動においても、まず「かく」ことから始まります。
たとえば音楽活動。曲を作る時、歌詞はノートに書いたりします。スマホのメモに入力することもありますが、ノートに書くと、いい言葉が浮かぶこともある。ノートは好きな場所に好きなように書けるし、きれいにも書けるし、汚くも書ける。自由度が高い分、言葉も自由に出てくるからかな。筆記具は、いつもゲルインキボールペン。書き味がよいので、頭に浮かんだことをスムーズに紙に落とせます。
イラストもずっと描いてきましたが、なかでも大切に描き続けているのが「三毛&カリントウ」というキャラクター。いよいよグッズ発売という形で表舞台に立つことになったんです!
「三毛」は大きな瞳の女の子で、「カリントウ」は尻尾の立っているワニです。私は色をつけるのが苦手で、ずっと鉛筆だけで描いてきましたが、あるとき宇野亞喜良さんの絵に出会い、すごい衝撃を受けたんです。そこからペンで描いて水彩で塗るようになって。ボールペンで描いた線に水彩絵の具をのせると、線のふちが少しじわっとにじむ感じが気に入っています。
宇野亞喜良さんの絵に出会ってからは、女の子を描くことに夢中になりました。そこで自分なりの女の子の描き方を探しているときに生まれたのが、三毛です。瞳だけペンで描いて、まつげは水彩でのばしていくと、すごくかわいらしくなって、あっ、これが自分の描く目だって。でも愛らしさのなかにも、猫みたいに目を光らせて、いたずら好きなところもある。三毛には、そういう複雑なかわいらしさがあるんです。
ワニのカリントウは、そもそもきれいに描いていない。形がくずれているところがポイントです。ヘニョヘニョなのに、口先がとがっていたり、尻尾がピンッと立っていたり、動物としての鋭さもある。リンゴが隣にあることで、ワニの大きさがりんごぐらい? そんなに小さいの? って。そのサイズ感もちぐはぐだし、ワニなのにカリントウっていう名前もちぐはぐ。そのちぐはぐな感じが、すごく私の好みで。三毛とカリントウは、看板娘と看板ワニという感じですね。
「三毛&カリントウ」ゲルインキボールペンで線を描いて、水彩絵の具で着彩。
「作品を見た人に何か感じてもらえるとうれしいですね」
― リボンアートも、かわいらしさの中にも鋭さがありますね。
そうですね。リボンアートは、昨年に『Ribbon』という映画をつくったときに思いついたアートですが、ちょうちょ結びにしたリボンを木に密集させたり、こけしに貼り付けたりすると、ちょうちょが群れになっているような、一見不思議だけれど美しく見える。ちょっと不安定で、いびつな魅力がリボンで出せることに気づいてから、リボンを密集させるというアートを創り続けています。
最初は絵を描いたキャンバスに、リボンをつけていましたが、あるときちょうちょが木に密集している写真を見つけて、これをやりたいって。それで沖縄の『やんばるアートフェスティバル』で、ガジュマルにリボンを密集させる作品を展示しました。見た人は筋肉みたいという人もいるし、血みたいという人もいます。見る人によって見え方は違うけれど、それぞれ何かを感じてもらえることが、すごくうれしいですね。
私の故郷のご近所でもある、兵庫県生野町で開催された『ikuno art stay 2023』では、小さなこけしにリボンを貼り付けるという表現をしました。こけし一つ一つにリボンをつけると、それぞれが意思を持っているような、感情が流れているように見える。畳の部屋に展示したので、リボンには和の魅力があったことも発見しました。
広い空間を使ってアートを作り上げるときはスケッチブックに、やはりゲルインキのボールペンで軽くデッサンして、スタッフとイメージを共有します。映画をつくったときも絵コンテをたくさん描きました。
のんさん直筆の映画「Ribbon」の絵コンテ ©「Ribbon」フィルムパートナーズ
「不気味だけど美しい……複雑なものを提示したい」
― いろいろな表現活動を通して、のんさんが伝えたいことは?
私は不気味でこわいけれど、美しく見えたりかわいらしく見えたり、そういう複雑なものを提示したいんです。演技をしているときも、複雑な感情を表現するシーンが、特に好きで。
私は兵庫県の田舎の出身なので、話す言葉も強めな関西弁。友達同士でも当たり前にそれで話していたのですが、そのノリで東京に来たら、すごく性格がきついと思われたんです(笑)。それで必死に標準語をマスターして、声のトーンを高くして、ソフトなふるまいを模索しました。
そういう自分自身が体験したことが、演技をするうえでも重要になってきたので、おもしろいなと感じます。それはアートにもつながっている気がします。
「怒りや悔しさは瞬発的にアイデアがわく感情です」
― 演技をするときに「かく」ことは、どんなふうに関わっていますか。
台本をもらったら、まず一冊のノートをつくります。台本に書いてある役の特徴やせりふ、その役に対して言っているせりふなどを、ノートにすべて書き出しその役について深堀りしていくんです。
たとえば台本に「ぼうっとしている」と書いてあったら、ただぼうっとしているだけにも思えるけれど、頭の中でいろいろ考えているとか、口に出していないだけで妄想するのが好きとか、様々な特徴が考えられるので、それにすべて矢印をつけて書き出していきます。
書き出した言葉の中からキャラクターに合う特徴をピックアップし、そこで浮かび上がってくる人物像をキャッチするんです。そして、その役の「オブジェクト(目的)」「オブジェクトの障害となっているもの」「ペイン(こころの痛み)」の3つを、その人物の軸としてとらえていきます。
この3つの中でも、私が特に大事にしているのがペインです。ペインを見つけると複雑かつドラマチックに役を捉えることができます。
そういう複雑な人の感情を自分の中で押さえていくことで、役ができてくるし、そういった役の作り方が私は好きなんです。
もちろん現場に行って、監督の演出を受けて変わることもありますが、当たりをつけておくことで、「これじゃなくてこうなんだ」と、比べることができてやりやすい。最短距離でいけるんです。ですから私の場合、一冊のノートで役を構築してから、現場に行くようにしていますね。
― のんさんのクリエイティブの源は何でしょうか?
自分の「感情」ですね。特に怒りが、いちばんエンジンをかけやすい。怒りや悔しさは、瞬発的にアイデアがわくし、想像力を働かせることのできる感情です。それに対して持続的につくっていくときは楽しさが大切ですね。
実は先日、東北ユースオーケストラのステージで詩を朗読させていただきましたが、新しい発見がありました。クラシックを心地よく聴いていると、思考が浮遊していく感覚があったんです。高揚しているような、でもすごく静かで……、これもまた複雑な感情だなとおもしろくとらえました。
今後も、いろいろな表現活動にトライしていきたいですね。目下の目標は、自分の大切にしている「三毛&カリントウ」をいろいろな形で世に出すこと。それからグループ展もやってみたい。私のように役者をやりながら絵を描いているとか、音楽をやりながら絵を描いているとか、そういう方たちといっしょに展覧会ができたらいいなと夢見ています。
やはり「かく」ことは、私の活動には外せないのです。
のん さん 俳優/創作あーちすと
1993年生まれ、兵庫県出身。2016年公開の劇場アニメ「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を演じる。2022年には自身が脚本、監督、主演の映画作品「Ribbon」公開。同年9月公開の映画「さかなのこ」では、第46回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞を受賞。創作あーちすととしても活動を行い、2018年『‘のん’ひとり展‐女の子は牙をむく‐』2021年『やんばるアートフェスティバル』、2022年『のんRibbon展 -不気味で、可愛いもの。』、2023年『ikuno art stay 2023』にて作品発表。大量のリボンを使い、可愛くて、凶暴な要素がぶつかる作風が特徴。2023年5月、自身のオリジナルキャラクター「三毛&カリントウ」グッズ展開。音楽活動では、2017年に自ら代表を務める音楽レーベル「KAIWA(RE)CORD」を発足。2023年4月発表の新曲「この日々よ歌になれ」が映画「雄獅少年/ライオン少年」の日本語吹き替え版主題歌に決定。
2023年6月28日(水)には、のん2nd Full Album「PURSUE(パーシュー)」発売。LIVE「PURSUE TOUR - 最強なんだ!!! - 」が7月9日(日)Zepp Haneda、7月17日(日・祝)梅田クアトロで開催予定。
三毛&カリントウ公式サイト http://mikekali.jp
のん公式サイト https://nondesu.jp
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