2022/11/02
描くことで旅はもっと楽しくなる♪ イラストレーターnaohigaさんが描く 旅ノート[鎌倉編]
さまざまなメディアで人気を集めるイラストレーターのnaohigaさん。今回は、naohigaさんがパイロットの筆記具と旅をする「旅ノート」企画の第2弾。旅先で筆を走らせるシーンを追いかけて、訪れた先々で「旅ノート」を描く楽しみや、心に残るイラストを描くヒントについてお話を聞きつつ秋の鎌倉を巡ります。
旅に携帯する筆記具は最小限に。
気の向くまま、ライブ感を楽しみながら描く。
少しずつ秋が深まる頃、最初に訪れたのは、江ノ島電鉄「極楽寺駅」からほど近い、空海ゆかりの古刹、鎌倉「成就院」。山門へ続く108段の階段を上がって後ろを振り返ると、由比ヶ浜から材木座海岸まで続く海岸線を一望できる絶景が広がります。恋愛成就のパワースポットとしても人気が高く、映画『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』のロケ地としても知られるお寺です。
初夏には紫陽花、秋は萩の花が参道を彩り、訪れる人々を楽しませる。
待ち合わせ場所の山門前に現れたnaohigaさんは小さめのバッグひとつでとても軽装です。今日使う道具を見せてもらうと、小ぶりなスケッチ用ノートに筆記具も4本だけ。
左:ご本尊に手を合わせるnaohigaさん。右:本堂前に置かれたご本尊不動明王のご分身。恋愛成就はもちろん、人間関係の縁結びにもご利益があるという。
手入れの行き届いた境内には、本堂のまわりに不動明王のご分身や子安地蔵、釈迦菩行像など見どころがいっぱい。お参りを済ませると、山門前ですかさずノートを取り出してスケッチが始まりました。
「いつも旅そのものを楽しみながら、いいなと感じたもの、ふと目に留まったもの、印象的なことなどを気の向くままに描くようにしています。どうしても詳細な記録として残したいときは写真を撮ることもありますが、ほとんどの場合は目の前にある景色やモノを観察しながらその場で描いています。その方が旅のライブ感を楽しめますよ」
境内を散策しながら縁結びのお守りや風景に目を留めては、サラサラとノートに描き進めていく。
naohigaさんは、映画『男はつらいよ』の全国各地のロケ地を実際に訪れ、現地での体験を旅ノートに描きためているほど『男はつらいよ』シリーズのファンで、寅さんの目に映ったのと同じ景色を感慨深そうに眺めていました。
「好きなことを旅のテーマにすると楽しみが増えますよね。おすすめなのは、例えば湖に行ってのんびりしようとか、鳥を見に行こうとか、旅の目的をひとつだけ決めて後はあまり決め込まないでおくことです。余白を持たせておくと、偶然の出会いがあったりして楽しいですよ」
極楽寺駅への道中、電線を綱渡りする野生のリスを目撃。駅のベンチでノートをさっと取り出して、記憶の新しいうちにイラストを描く。
潮風と砂粒が旅土産に。
旅先の人々の日常を描くのも旅の醍醐味。
「成就院」を後にして、極楽寺駅から電車に揺られて向かったのは由比ヶ浜。ここで合流したのは金継ぎ(きんつぎ)アーティストの藤田美穂さんです。金継ぎとは、割れたり欠けたりした器などを漆を使って接着し、金粉で装飾して仕上げる日本古来の修復方法。藤田さんは鎌倉を拠点に金継ぎによる器の修復やワークショップをはじめ、その手法をアレンジして湘南の海で採取したビーチプラスチックやシーグラスでアクセサリーをつくっています。
まずは藤田さんと一緒に砂浜を散歩しながら、素材探しのお手伝い。少し歩いただけでも、カラフルな鉱石のようなビーチプラスチックが見つかりました。
「見た目の印象と、手に取ったときの重さのギャップに驚きます。ちょっと重そうに見えたけれど、プラスチックだけに持ってみるとこんなにも軽いんですね」
由比ヶ浜に打ち寄せられたビーチプラスチック。燃やされたプラスチックの欠片が波にもまれ、炭化した様子は美しい鉱石のような佇まい。
砂浜に落ちていたビーチプラスチックも、藤田さんの手にかかると美しいアクセサリーに変わる。
アクセサリーやオブジェを見せてもらいながら、砂浜でノートを広げてさっそくイラストを描き始めました。「ビーチプラスチックと天然石を合わせて金彩(きんさい)することで、ごみだったとは思えないほど素敵に仕上がるんですね」と手を動かしながらも語りかけるnaohigaさん。
「しゃべりかけても大丈夫なんですか?」と遠慮がちに尋ねる藤田さんに、「目に見えているものをとらえて反射的に手が動いているので、意外と話しながらでも描けるんですよ」とペンの動きはなめらかなまま、お互いの表現活動の話にしばし花が咲き、由比ヶ浜でのワンシーンがあっという間に描き上がりました。
「以前は万年筆って苦手意識があったのですが、ある日とても描き心地がいいことに気づいたんです。その上、インキの濃淡のニュアンスも出るので、こなれた線を描けるように感じます」
旅先では、いつもどんな目線で描くモチーフを選んでいるのか、聞いてみました。
「旅先だからといって観光名所などを描くだけでなく、私は現地の人々の日常に触れられるようなものに惹かれます。例えばここでは、みんなが平日の日中にサーフィンを楽しんでいる自由な空気だったり、民家の軒先や線路脇の植物をかすめながら走る江ノ電の距離感だったり、そんなことを感じながら目に焼きついたシーンを描きとめています。それこそ旅の醍醐味ではないでしょうか」
由比ヶ浜駅のすぐ近くにあるアジアンカフェ「カイトン」へ場所を移してのランチタイム。食後も手を動かし続け、旅のシーンが着々と描き足されていく。
「旅ノートはもちろん現地で全部仕上げようと思わなくていいんです。途中まで描いて、自宅に帰ってから仕上げを楽しむ時間も含めて、旅気分を味わえます。ほら、こんな風にノートから由比ヶ浜の砂がパラパラと落ちてくるのも旅土産みたいで素敵ですよね」
旅先で偶然生まれるコミュニケーション。
似顔絵を喜んでもらえると、旅の楽しみが倍増!
由比ヶ浜を後にし、今小路通りを散策しながら次に訪れたのは、帽子作家・黒田真琴さんが営むアトリエショップ「Pajaro(パハロ)」。黒田さんは世界各地を旅して集めてきた糸やリボン、ビーズやボタンなどさまざまな素材を使って帽子をつくるクリエイターです。店内には、黒田さんの作品のほか、たくさんのクリエイターによるアクセサリーやオブジェなどさまざまな品が並び、見る人を惹きつけて飽きることがありません。
お店の奥は黒田さんがものづくりをするアトリエスペース。毛糸やリボンなどあちこちに置かれたカラフルな素材がそのままディスプレイになっているかのような、創造力を刺激される空間となっている。
ショッピングを楽しんだ後は、旅の話やお互いの表現活動について話が弾みます。自分がつくった帽子や似顔絵を「旅先で出会った人に喜んでもらえた瞬間がとても嬉しい」という話題で意気投合。旅先で思いもよらない出会いがあることも旅の大きな楽しみなのだとか。
「普段外出先や旅先でノートにイラストを描くのは、実は時間つぶしだったり手持ち無沙汰の解消だったりすることも多いんですよ。例えば料理を待つ間、飲食店の大将の後ろ姿がキュートだなと感じて描いてみるとか、ひとりの楽しみとして描いた絵が、想像以上に相手に喜んでもらえると、喜びが倍になります」
おしゃべりをしながらも絵を描き始める。着目したのは、天井近くに飾られた帽子を長いバーでヒョイと取り外す黒田さんの後ろ姿。「かわいい! と思った瞬間を絵にしました」
「旅先で描く絵は、誰かに見せようとして描くのでなく、あくまでも自分の楽しみとして好きなものを描くことがポイントです。こなれた感じに仕上げるコツは、気まぐれに描いたたくさんの旅のパーツの隙間を埋めるように、旅先の名前をあえてアルファベットで描き込んで全体を引き締めること。ぜひ皆さんも、上手に描こうとするのではなく、自分なりに『楽しい!』『好き♡』と感じる旅のシーンを自由に描いてみてください。旅はもっともっと楽しくなるはずです」
使ったペン: 万年筆「ライティブ」(中字)/ 「色彩雫(iroshizuku)」(月夜)/ ゲルクレヨン「クレオロール」(パステルピンク/パステルグリーン) / 水性顔料マーカー「ジュースペイント」(極細・ゴールド) |
naohiga さん イラストレーター 1983年生。大学卒業後、グラフィックデザイン会社勤務ののち、フリーのイラストレーターに。雑誌やWeb媒体、アパレルブランド等を中心に活動。 |
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travel note
▶︎成就院 http://www.jojuin.com
▶︎由比ヶ浜のアジアンカフェ「カイトン」 0467-38-5261
▶︎金継ぎアーティスト 藤田美穂さん https://www.instagram.com/mihofujita/
▶︎帽子作家 黒田真琴さんのアトリエショップ「Pajaro」 http://makotokuroda.com
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