楽しいと感じることがある以上、創造力の源泉が尽きることはない
[長尾 啓介 さん / 工芸アート]
2025/01/15
彫金で培ったスキルを活かして「透かし」「カービング」「焼き」を取り入れた繊細で美しい瓢箪作品をつくる、工芸アーティスト長尾啓介さんをご紹介します。
ふたつとして同じ形の無い天然の瓢箪。瓢箪ランプは、その貴重さ故に決して量産出来ない一品物として価値を吹き込む、とてもやりがいのある作業です。皆さんご存じの瓢箪ランプは模様に沿って千枚通しで丸い穴を開けただけのものが多いと思います。私が表現したいのは、繊細な作業を要する彫金の道具を使って「透かし」「カービング」「焼き」を取り入れた、より立体的に映る照明作品。厚さ数ミリまで彫り込む作業は、何度も光を当て指で触れ、感覚的に厚みを把握します。一度穴を開けてしまうともう後戻りできないとても繊細な工程です。瓢箪表面をコテで焼いた部分と彫り込んだ薄皮1枚のコントラスト、そして縦に入ったカービングが織りなすデザインに明かりを灯した瞬間、想像以上の表情が浮かび上がります。一連の作業で大切なのは「下書き」です。デザインのラフスケッチを描くことも大事ですが、瓢箪の手を加えない部分、彫る場所、焼く場所など目印を書き入れる必要があり、この細かな作業によって単純な形の瓢箪に存在価値がより表現されるようになります。
特に趣味であるサーフィンやヨガを行っているときや、仲間と楽しい時間を過ごし気持ちが解放されているときにアイディアが浮かんできます。新しい人との出逢い、美味しいものを食べたとき、楽器を弾いているとき、バイクに乗っているとき、全ては自分のバックグラウンドに紐づいていて、「楽しい!」衝動に駆られるような瞬間全てだと思います。花など自然をモチーフとすることもありますが、無造作に描いた抽象的な線を繋ぐことで生まれる新しいパターンもあります。気になるモノが見えた瞬間に、イラストにしたくなり、カービングとして彫り込みたくなり、作品の完成像が見えてきます。新たな作品作りはそこからスタートします。
ランプを手にした人が明かりを灯した瞬間何を感じるだろうか? 喧騒から離れ、自宅でホッと一息ついたときに綺麗と感じてもらえるだろうか? はるか昔から存在する瓢箪。歴史の中でもさまざまな場面に登場する瓢箪。そんな瓢箪ランプを眺めながら好きな音楽を掛けて、お酒を飲みながら「瓢箪がたどってきた記憶に思いをはせる」そんな時に必要な存在になれればいいなと思って制作しています。オーダー以外の作品は全て「禅語」から命名していて、その意味合いも瓢箪ランプを作っているときの気持ちと一緒に落とし込んでいます。
頭を空っぽにして「無」を感じることのできる瞬間。子供の頃はどんなことでも「無我夢中」になっていたが、大人になると何をするにも、損得、打算......、常に何かを考えて行動してしまう。無我夢中でモノを描くこと=ストレスフリーで「無心」の時間を与えてくれる貴重な瞬間、ストレスによって自分の中に穴が出来てしまっても、いくらでも穴を埋めてやり直せ、失敗など存在しないと実感できる瞬間、それが自分にとっての「かく」ということです。
「今」の自分の頭の中にある気持ちなどの全てを形にして表現し、人に観てもらいたい。創作活動を通じて、瓢箪農家様をはじめ応援してくれる皆への感謝の気持ちを表現したい。そして大好きなバイクの振動を、音楽を聴いている気持ちを、波に乗っている感覚を、ヨガで整える呼吸を、その全てを表現したい。自分が楽しいと感じることがある以上、この源泉は尽きることはありません。
photoトップメイン:西洋の陶器がモチーフの作品「而今」。背景は、瓢箪ランプヨガの空間。 photo1:蓮がモチーフの作品「自灯明」。 photo2:「箱根神山」「自灯明」のラフスケッチ。 photo3:「箱根神山」をモチーフとした作品。 photo4:瓢箪に焼入れを施した後のカービング作業の様子。 photo5:2024年7月頃の瓢箪。
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