見えないからこそできる物語を編み出したい
[全盲の画家 オバケのタムタム さん / 貼り絵]
2024/11/15
視力を失ってから絵を始め、粘土や水彩画を使うなど独自に編み出した手法で貼り絵作品を描く、全盲の画家、オバケのタムタムさんをご紹介します。
オバケのタムタムは私の分身です。外に出ることが出来ない私の代わりになんでもすりぬけていろんな世界を見せてくれます。全盲なので、なかなか上手な絵は描けません。でも、家族や見てくれた方からの「あなたにしか描けない絵がある」という声に励まされて描き続けています。私の創作活動のメインは貼り絵です。まず描きたい絵を頭の中で描きます。ここが肝かもしれません。頭の中にあるものを描き出す方法として、粘土を使うなど独自の製作方法を編み出しました。まず粘土で原型を作ります。一般的にはスケッチや下絵にあたるのでしょう。思うような形になるまで何度も行い、型に合わせて紙を切り抜きます。切り抜いた紙の上に「水彩で描いた貼り絵用の色紙」を貼って描いていきます。色紙は、型と並行していろんな色で描いて作っておいて、色ごとに箱や缶に分けて記憶しておくのです。水彩でそのまま風景などを描くこともあって、水彩画には詩を書いています。(正確にはキーボードで打つですが)。詩画ですね。
これまでの人生、日々の体験、考え、ひらめきなどが頭の中でブレンドされてイメージが湧くような感じです。更に頭の中で考えてアイデアを練っていきます。原型に近いものを作り上げていく感じです。子供の頃、地方で育ったことが原風景だと思います。山や川、牧場でよく遊び、動物や植物が身近でした。物語を読むこと、動物の図鑑を眺めることも好きでした。これらも私の感覚を養ってくれたように思います。今も自然と触れ合える環境にあって、いつも絵のことを考えています。家族と散歩や旅行するときも、何気ない植物や鳥などに心ひかれます。離れて暮らす息子の家まで一人で飛行機に乗って行くこともあります。そんなときは一緒に散歩に出掛けて、何か面白そうなものがあれば教えてもらい、触れることができるものは触り、説明してもらってそれを絵にします。
見えなくても、ではなく、見えないからこそできる物語を編み出したいと思っています。私らしい表現ができればと思い、いろんな画材(麻縄やマスキングテープ、綿、ダチョウの羽など)を使って描くなど試行錯誤しています。どこかホッとするようなかわいらしさ、クスッと笑えるような絵がいいですね。私は真面目で小心なところもあるのですが、一方でユーモアのあるものを考えるのも好きです。それらが上手くミックスできればと思います。真剣にふざけるといった感じでしょうか。かわいらしくて、ちょっとへんてこりんで味がある、私らしい世界観だといいのですが。完成したら、そこからは私の手を離れます。見る人が自由に感じてくれて、みなさんの心に何かしら残ってくれたなら幸せです。
ライフワークです。生きること、日常、体験、聞いたこと、調べたこと、過去、現在、未来それらすべての連なりです。子供の頃から本が好きでした。思春期に将来の失明宣告を受けてから数年後、童話や大人も読める物語を書くようになりました。書き始めて7年後に新人賞をもらいました。いまも読書(聞く)は相変わらず好きで、大きな楽しみであり、知らないことを知る手段であり、勉強にもなっています。そして今、貼り絵を中心に活動しています。過去から現在のすべてが今の「かく」という活動につながっている気がします。
目が見えなくても絵を作りたい、ただただその一心です。描いているときは、生きているという実感があります。SNSを始めた頃には想像もしていなかったことですが、私の作品を見てくれた人がファンになってくれたり、オリジナルグッズを購入してくれたり、展示会のお誘いをいただいたり、少しずつ、個人や企業から原画の購入、描きおろしやデザイン使用のお仕事が舞い込むようになりました。膨大な描き手の中から私にたどり着いてくださることは本当にありがたいことです。「絵も文も手掛けた絵本の出版」という夢に向かって頑張りたいという想いもあります。また、無償で応援し続けてくれている家族を海外へ連れて行きたいです。可能なら、そうした先でグッズの即売会ができたら楽しいでしょうね。
photoトップメイン:あらゆる生命が息づいている「海の世界 sea world」。photo1:「骸を引くアリ Ant pulling the corpse of a pillbug」。息子と一緒に散歩しながら観察することで生まれた作品。 photo2:「ハシビロコウ」。 photo3:「ルリビタキ」。 photo4:「ステゴザウルス」の原型を粘土で作る制作風景。 photo5:家のまわりの植物たち。
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