人体や動物の絵を通して、自然の寛大さや美しさを伝えたい
[牧野 美裕希 さん / 油彩画]
2024/09/06
人体や動物が持つ野生的な美しさに惹かれ、メッセージ性のある油彩画を描く牧野美裕希さんをご紹介します。
学生時代のある日、青年マルスの石膏像のデッサンをした時、私はあえて背中を描きました。その時に男性の筋肉の美しさと力強さに魅了され、それからというもの、曲線や線、肌の質感など無限の要素から成り立っている人体の美しさを描いてきました。現在は動物に魅力を感じ、幼少期からずっと好きだった狼を中心に、「自然の寛大さや美しさ」をテーマに作品を創作しています。キャンバスに向かう時は無我の境地にあり、数時間にわたって水も飲まずに集中して描いています。
子どものころから動物園に通って生き物を観察するのが好きでしたが、今も美術館や博物館、水族館に足を運び、多くの刺激を得られるように心がけています。さまざまな場面で受けた刺激を自分の作品にどう落とし込めるかを考えながら日々を過ごしています。そして、その後すぐ創作に移るのではなく、インプットした感覚を自分の内側に蓄積させ、一旦無の状態になってしばらく醸成させると、ふとアイディアやモチーフが頭の中に降ってきます。
学生時代の先生に言われた「自分の満足のその先まで作れ」という言葉を、いつも心に留めて制作しています。自分が「これで完成だ」と思って満足して終わるのではなく、「その先にこそ、本当の完成が待っている」ということです。常に自分のレベル以上のものを作ることを意識することによって感性がアップデートされ、成長につながっていると感じます。例えば、一旦「絵を描き終えた」と思うところで、数日間は絵を見ずにおいておきます。そして数日後、離れたところから改めて見てみると冷静に客観視でき、書き足したり修正したりして、完成度を更に高めていくことができるのです。
絵を描く作業は、単なる技術的な練習や仕事ではなく、自己表現のひとつの方法です。世界に向けて訴えたいことや私の考え、うまく言葉にならない感情を、絵を通して現実世界に可視化させているのです。また世界とのコミュニケーションツールのひとつでもあります。私は言葉による口頭での説明が苦手なので、特に身近な友人との会話で説明をする際には、メモ帳に絵を描いて説明しています。
もうひとつの創作活動として、オーダーメイドのシルバーアクセサリーを作っているのですが、指輪のデザインでも、私の頭の中にあるデザインをいくつか描いてコミュニケーションをとりながら、お客様の頭の中にある理想的なデザインを引き出していくようにしています。
創作活動の原動力は、自分の価値を見出すことです。創作活動を通じて自分の考えや美的感覚、内面をさらけ出した分身のような作品を、他人に見てもらって評価してもらうことで「もっと頑張らなくては」と思います。他人の評価で作品の価値が決まるとまでは言いませんが、それが大きな原動力となっているのは確かです。SNSでメッセージをいただいたり作品を購入してくれたりすると、自分の表現したいことが届く人には届いているんだなと感じ、それが次の創作に対する意欲につながっていると実感しています。SNSや公募展で、より多くの注目を集めるために、作品の精度を上げ、価値を高めるよう日々努めています。
photoトップメイン:祈っているのか、自身の過ちを懺悔しているのか、背中に空いた穴から何かが生えてきそうな、男性を描いた作品。 photo1:メインビジュアルの作品と二部構成になっている。男性(人間)の体を養分にして新しい木(自然)が育つ様子を描いた。 photo2:絵でもアクセサリーでも作品を作る時は、さまざまな角度からの写真を見ながら、いくつもクロッキーを描く。 photo3:朝、希望に満ちあふれている空気とともにある狼の作品「おはよう」。 photo4:「百合の花」のイメージでとのご要望を受けて、甘い香りや優雅な佇まいをデザインに込めた作品。 photo5:美しい写真が撮れたことをきっかけに描きはじめた、自分にとって挑戦となる絵。魚も川も水面も、描くのは初めての経験。
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