絵筆からペンへ、相棒がバトンタッチした、そんな感覚
[青海玻 瑠鯉 さん / 詩]
2024/05/24
人間という生物の中にある本能やエゴといった「深淵」を奥底まで観察し、描き出した詩を創作する青海玻瑠鯉(セイカイハルリ)さんをご紹介します。
動植物や気候、四季、そして人間の性(さが)や業(ごう)、営みを中心に詩を書いています。作品の共通テーマは、「青冰月鯉(せいひょうげつり)の詩(うた)」。最近では、競走馬と騎手をモチーフにした詩が多いです。創作に用いるのは、原稿用紙とシャーペン、万年筆、ガラスペンです。原稿用紙は万年筆のインクに耐えられる飾り罫入りの原稿用紙を使用。筆圧が高いため、原稿用紙の下敷きは、プラスチック製でなく紙を使っています。まず、イマジンを掴む下準備としてのインプット作業では、好きな作品を書写します。書写することで、言い回しや語彙の収集、デザインの勉強になっています。思いついたフレーズの走り書きなどアウトプット作業や、詩集に収録する作品の分類などの編纂作業、原稿用紙への下書きや清書も手書きです。ペンを持って手を動かすことで頭の中を整理して、余分な言葉やフレーズ、誤字脱字をチェックしやすくなるため、推敲も手書きで行うようにしています。
日頃から読んだり聴いたりしている小説や漫画、詩集、音楽の歌詞等々(作家を追いかけるか、作品を追いかけるかという違いはありますが)、インプット作業から影響を受けてアイデアが生まれることが多いです。本棚からインプットされた言葉が脳内のマグマに取り込まれ、時間が経って冷たい花崗岩となり、侵食されて小石になり、アウトプット作業により河川から海へ運ばれ、白い砂浜が出来上がります。花崗岩の成分にも種類が多々あるように、語彙も玉石混淆です。ですから、詩作品として言葉を抽出する際には、誤字誤用がないように心掛けています。
まず、「モチーフは何か、テーマは何か」を決めることです。いずれか一方を決めれば、言葉は自ずと出てきます。次に考えるのは、「分量」と「長さ」。長すぎず、短すぎずの中間を狙います。詩は、「詩そのものを映像のように味わって、言葉の解釈をしなくてよいもの」と、「詩の中にメッセージが込められているもの」の2パターンに分けられます。時折、投稿作で長い詩が散見されますが、読み手も書き手も、お互い磨耗するような長すぎる詩は避けたいと考えています。目安は、400字詰原稿用紙2枚前後。また、「漢字」と「かな」と「句読点」をできるだけバランスよく配置させ、余白も含めてデザイン性を持たせることもあります。これらを駆使して、完璧か最高級をつくる、それが私の創作です。
もともと、小学生の頃からコンクールに出品したり、美術部でアクリルガッシュを塗っていたり、何かを描くことが好きでした。とはいえ、絵が上手な人はたくさんいますし、立体空間を把握する力が不足していたこともあって、絵の能力は頭打ちだと気づいたのです。それと同時期に入れ替わるように文学が好きになり始めました。小学生の頃の私は、本を読むのに抵抗はなく、国語はできても、書道や作文、聞き取りテストの成績は壊滅的で、書くことが苦手でした。でも、見たものやイメージしたものをそのまま二次元に写生する「描く」作業と違って、言葉を「書く」作業は、語彙を増やす、辞典を引く、調べるといったインプット作業によって鍛えることができます。鍛えられた包丁で肉がするっと切られるように、私の手にあるペンはかなり饒舌になりました。私にとって「描く / 書く」ことは、絵筆からペンへ、相棒がバトンタッチした、そんな感覚です。
一人の人間であり、詩人として生きること。人間という生物の中にある本能やエゴといった「深淵」を奥底まで観察し、描き出すことを、己が芸術の至上としています。また、小説、漫画、動画サイト、アニメ、映画、ゲームなど、好きなアーティストや作家の楽曲や作品......、これらを独り占めできる「一人時間」もまた、創造力の源かもしれません。私には、誰かといると緊張をほどけられずに肩こりが悪化したり、草臥(くたび)れて寝室で突っ伏したりするといった虚弱さもあるのです(自慢できるのは骨折したことが無いことだけ)。100人に読まれることも経済的には必要ですが、それ以上に100回読み返される方が何倍も重要だと思っています。
photoトップメイン:インスタグラムに投稿した作品「三日月砂丘の向こう」を万年筆で原稿用紙に書写。インクは、10色以上持っている中からブレンドしてつくった深い青色で。 photo 01:NOTE15で作成。Xで呼びかけがあって投稿した作品。 photo 02:何冊あるかまったく把握できていない本棚。本や詩集などのインプット作業からアイデアが生まれてくる。 photo 03:詩誌『La Vague』の参加型企画「寄せて返す波」を知り、思うところあって筆をとり、「返詩」を創った。 photo 04:原稿用紙に万年筆で清書をする前には、必ずシャーペンで下書きを行う。 photo 05:最近はゲームの影響で競走馬とジョッキーの関係性に刺激を受けている。写真は、北海道へ家族旅行した際に乗馬体験をした時のショット。
この記事をシェアする