描くことで湧き起こるワクワク感、喜び、癒しが創造力の源
[淺賀 敬子 さん / 蜜蝋画]
2023/12/22
蜜蝋のテクスチャーが生み出す景色にさまざまな画材の色をのせて加筆しながら作品を描いている淺賀 敬子さんをご紹介します。
2018年に蜜蝋を画材として使う手法に出逢って以来、蜜蝋画の魅力に取り憑かれています。主な画材は蜜蠟ですが、それに加えて万年筆インクやパイロットさんのジュースアップなどのカラーペン、油絵の具などさまざまな画材で描いた彩り豊かな表現が特徴です。初めから描きたいモチーフやテーマを決めて描くこともありますが、溶かした蜜蠟を紙にのせたりハケで塗ったりして偶然できあがったラインやテクスチャーからインスピレーションを受けて、色とりどりの画材を思いのままに紙にのせ、加筆しながら作品を仕上げていくことが多いです。蜜蠟画の他にもインクとペンによる線画も好きで、インクを無造作に垂らした後に見えてきたものを、ペンで描き加えて作品を仕上げてゆきます。
物事を決めるとき、私の人生の基準は「面白い」ことです。タイルのひび割れが模様に見えたり、コロコロした形の昔のお風呂の床タイルが不規則に配置されているのが動物や顔に見えたり......。街中でもいろいろなものが面白く見えて、すべてをデザインとしてとらえることができるので、創作のアイデアは、いたるところにころがっているように感じます。それらが蓄積されて、ふとした瞬間に閃いたり、画面に向き合っているときに溢れてきたりします。創作のアトリエにしているのは、祖父母から受け継いだ自宅の和室。季節の移ろいを肌で感じられるこの家は自然に囲まれた環境にあって、庭や近所の草花や木々を愛で癒されながら、アイデアの種を探しています。そんな風に楽しいことを選びつつ日々を過ごし、そしてふいに描きたくなったときに筆をとって一気に描き上げます。
心掛けているのは、「面白い」「心地よい」「ゆらぎ」「いい加減」「おおらかさ」。基本的に、美しいもの、癒されるものに惹かれる傾向があって、「家に飾りたい」と思える作品を描いています。また、ほどよくいい加減である方が心も安らぐので、あまり厳密にしすぎず、面白さや楽しさ、ゆらぎを大事にしています。私の絵で、少しでも癒しをお届けできたら嬉しいです。
「書く」、そして「描く」ことは、私の創作活動そのものです。閃いたアイデアや作品のタイトルになるようなもの、忘れないでおきたいこと、頭の中を整理するためにあらゆることを手帳に「書き」留めます。そして作品を「描く」ときには、紙などに描くように蜜蠟をのせ、さまざまな色をのせて湧き上がってくるものを描き、さらにその絵の上にもう一枚紙をのせて熱でプレスして蜜蠟を溶かします。紙に絵を写しとるこの工程さえも描くことの一部となっています。
日々の生活の中で感じる喜びと感謝、自然の景色や空気、さまざまなものです。草花を愛で自然の美しさをしみじみ感じること、美味しくご飯をいただける健康な身体、あったかいお風呂につかってリラックスできること......。たくさんの出逢いと有難いご縁にも恵まれ、これまでいろいろな経験をさせてもらったことに感謝の気持ちでいっぱいです。そしてなにより、描くことで湧き起こるワクワク感、喜び、癒しが創造力の大きな源となっています。
photoトップメイン:代表作の「天華-てんか-」。 photo 01:溶かした蜜蝋を思いのままに紙にのせた画面からインスピレーションを得て、色を重ねて作品を描き上げる。 photo 02:集中して作品制作する期間中は、夜明け前に起床して庭から朝日を眺めることで自分自身が癒され、創作への力をもらう。 photo 03:2023年4月開催の個展「蜜蝋画 淺賀敬子展 -1/f ゆらぎへの憧れ-」(並樹画廊 / 東京都京橋)の展示風景。 photo 04:アイデアを書くことも、作品を描くこともすべてが創作活動そのもの。ラフスケッチなどにはブルーブラックのジュースアップを愛用。 photo 05:アトリエスペースにもなっている和室に飾られた祖母の絵に、いつも見守られながら作品を描いている。
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