企業広告

企業広告2012

2012年度版パイロットの企業広告が完成しました。
3つのメッセージに、人のぬくもりが伝わるような素敵な絵を描いてくださったのは、雑誌などでも活躍中のイラストレーター、塩川いづみさん。独特なタッチとラインで描かれたイラストの制作の裏側をインタビューしました。

イラストレーター塩川いづみさん

万年筆で描くという新しい感覚に、すっかりはまってしまいました。

―塩川さんの作品は、鉛筆で描かれたものが多い印象を持っていましたが、「万年筆で描く」というのは初めてですか?

そうなんです。今回初めて万年筆で絵を描いたのですが、すごく使いやすかったですし、描くことがとても楽しかったです。
万年筆は線の強弱がつけられて質感も出しやすいので、描いている感覚が少し鉛筆に近い気がします。インキの濃淡が出るところやペンを運ぶ感じも、私にはとってもしっくりきました。ハガキを書くのにも使ってみたのですが、やっぱり「人が書いている」感じがすごく出しやすい。

万年筆のなんとも言えない心地よい感覚に、すっかりはまってしまいました(笑)。
ちなみに、何種類か試したなかで本番用に選んだのは、カスタム742の中字と太字で、インキはブルーブラックでした。
一定の太さや濃さで線が描けるボールペンなどは、人のぬくもりをあまり感じないようなクールな絵に仕上げたいときに選ぶことが多いです。だから今回「体温を感じるような、人が描いている感じの線で」というオファーを受けて、万年筆でそこまでできるかな、と実は内心ちょっと不安でした。私のなかでは万年筆もペンの一種という認識がありましたから......。でもそれはただの食わず嫌いだったみたいです。
万年筆でこんなあったかい線が描けるんだ、と私にとっては本当に思いがけない発見でした。

あたたかみが感じられるように、人の描く速度を意識しました。

―当初「体温を感じるような、人が描いた感じの線で」とご依頼をしましたが、この3枚に至るまでに試作もたくさんされたのでしょうね。

かなりたくさん描きました。ある程度の構図やモチーフは決まっていたので、線の表情や細かなニュアンスを出すことに集中していろいろ実験しながら描かせていただきました。
人のあたたかみが出るように「こういう場面のときはこう思っているかなあ」と想像しながら描くと、自然とペンが遅くなったり速くなったりするんです。例えば『名前という手紙』篇の妊婦さんの絵は、「旦那さんが奥さんを見つめながら、生まれ来る子どもへ手紙を書いているのかなあ」とか、『母さんの手紙』篇のお母さんの絵は、実は私の祖母に似ているんですけれど、自分の家族を思いながら描いてみたり......。
そういう、人の描く速度やインキのたまり、線のゆらぎのようなものが出るように意識して描きました。

ちなみに、『いちばん近い人への手紙』篇の絵は、「30-40代のカップルで、うまくいってはいるけれどなかなか話す機会がなくてちょっとすれ違ってる感じ、女性は忙しくてこんな性格かな」なんて想像しながら描きました。線画は口や目の角度ひとつで、仕上がりの表情に感情がにじみ出てしまうので、微妙な線のニュアンスを出すのにかなり試行錯誤しました。
『母さんの手紙』篇の絵では、もう少しニコッと笑っている「いいお母さん」というイメージのものもあったのですが、あまりイメージを限定するとちょっと押しつけっぽくなりそうで、最終的に、見る人が想像できる余地があるような、ふっと力の抜けた自然な表情の絵に落ち着きました。

線を遊べそう、これなら描けるなと、万年筆の魅力に開眼しました。

―普段鉛筆や竹ペンなどを比較的多く使われていますが、何か理由があるのでしょうか?

特に鉛筆でと決めているわけではなく、いろいろ使ってみたいとは思っているのですが、たまたま初めにお仕事をいただいたときに鉛筆で描いて、その奥深さにはまってしまったんです。鉛筆って強く描けば太く、弱く描けば細く描けるので、線をコントロールできるようになると本当に楽しくて......。
それに同じ黒でも濃淡が出せたり硬度によって線が違って面白い。線画というのは、シンプルなだけに画材の特性が顕著に出て面白いです。中でも私は思っている強弱のニュアンスがダイレクトに線に表現できる鉛筆に、使えば使うほどのめりこみました。

線の強弱が思うように出せたり、インキの濃淡が出せる万年筆にも、鉛筆と同じような面白さを感じました。
今回初めて万年筆で絵を描く機会をいただいて、描くことを心から楽しめました。角度によってペン先の運びに抵抗があったりするのも面白い。そんなちょっとしたクセがあると意外な線が描けるんです。微妙な線の表情が出せるので、「線を遊べそう、これなら描けるな」と感じました。
今まで万年筆はなんとなく敷居が高くて、「きちんと手紙が書けるようになったら揃えたい筆記具」という感覚でいたのですが、絵を描くための画材としても本当に興味深いです。万年筆の魅力に開眼しました。
今後は絵を描く道具としても挑戦してみたいです。

―万年筆のつくり手であるメーカーとしても、これから塩川さんの新しい作品が万年筆で描かれることを想像するだけで、期待で胸がいっぱいになります。本日はお忙しいところ、素敵な制作ストーリーをお聞かせいただき、本当にありがとうございました。

塩川いづみ izumi shiokawa / イラストレーター
1980年長野県生まれ。東京在住。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。2007年よりフリーランスで活動をはじめる。展覧会ほかファッション、エディトリアルなど国内外で広く作品を展開中。