日本の美しい情景と季節の移ろいを映す色。万年筆カラーインキ「色彩雫(いろしずく)」。

2022/01/25

日本の美しい情景と季節の移ろいを映す色。万年筆カラーインキ「色彩雫(いろしずく)」。

まるで深い沼から抜け出せなくなるようにカラフルなインキに魅了される人が続出し、いまや「インク沼」という言葉が定着するほどの盛り上がりを見せる万年筆カラーインキ。いまから遡ること十数年前に登場したパイロットの「iroshizuku 色彩雫」は、万年筆カラーインキの先駆けとして市場を牽引してきました。日本の美しい情景をモチーフとした「色彩雫」の誕生秘話とその魅力に迫ります。

万年筆インキの「色」が物語る
日本の情景。

 色とりどりの万年筆インキは、色の鮮やかさや筆跡の濃淡の美しさから人気を集め、昨今、カラフルな手書きの文字やイラストを、SNSにアップしてデジタルの世界でも楽しむ人々が増えています。

 そんなインキブームの火付け役ともいえるのが、カラーバリエーション豊富なパイロットの「色彩雫」。日本の四季が織りなす自然の情景にインスピレーションを得て生まれた万年筆カラーインキです。

 例えば「晴天の日に澄みわたる鮮やかな空」と聞いて、どんな色彩をイメージしますか? きっとその色合いは、「青」や「水色」などの言葉だけでは表現しえない、自然の息づかいや時間の流れといった日本人らしいストーリーが含まれているはずです。

 2007年の発売以来、万年筆とカラーインキを愛する人々に支持されてきた「色彩雫」は、独特の色合いはもちろん、情緒感あふれる色の名前も人気のシリーズ。「月夜」「松露」「蛍火」「冬将軍」をはじめ、すべて趣のある日本の言葉で名付けられています。


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「色彩雫」の色の名は、「黄色」や「緑」といった一般的な色の名称ではなく、古くからある日本の情景を表す言葉から命名されている。


 商品企画の話が持ち上がった2002年頃、万年筆愛好家の間では「もっと個性的なカラーインキを自由に楽しみたい」「さまざまな色のインキを使いたい」という声が多く上がりました。それまでの国産インキは実用性が重視され、瓶インキの色はブラック、ブルー、ブルーブラック、レッドのベーシックな4色が一般的でした。一方海外ブランドの瓶インキは、例えば同じブルー系でもニュアンスが微妙に異なる多彩なブルーが存在し、色選びを楽しむことができます。

 「万年筆で書くことを愛するお客様に、もっと自由に色を楽しんでいただけるようなカラーインキをつくりたい」

 日本の筆記具メーカーならではの個性を打ち出すことを目標に、既存の海外ブランドにはないまったく新しいコンセプトのカラーインキを開発することとなったのです。


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1979年までは製図用、証券用なども含む多色カラーインキを瓶インキで展開していたが、1980年以降はより利便性が求められ、カートリッジタイプのインキへとラインナップを変更。瓶インキは色数を大幅に絞っての販売となった。

 
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これまでにない色をつくるために
見本にしたのは、自然そのもの。

 日本には、四季折々に豊かな表情を見せる美しい自然や景色が多く存在します。まったく新しいカラーインキの企画にあたってインスピレーションを得たのは、そんな日本の自然そのものでした。それこそが海外ブランドにはない個性になり得ると考えたのです。こうして、季節ごとにさまざまな色彩であふれる「日本の美しい情景」をテーマとした開発が始まりました。

 インキの色づくりで苦労したのは、開発部門の調色技術者と微妙な色のニュアンスを共有することでした。

 企画担当者には、「漆黒の海面が月に照らされた深い藍色」「霧雨に濡れた石畳の質感を」といった色のイメージが脳裏にありました。ひとつの色を決めるにも、企画者が思い描くイメージから選び出した数パターンのカラーチップをもとに、技術者が試作する色のサンプルはそれぞれ5種類以上ありましたが、それでも微妙にニュアンスがすれ違うこともあり、何度もやり取りが続きました。あるときは、摘み採った花そのものを工場へ持ち込んで、「この色を再現したい」と依頼したこともあったほど。インキの色が決まるまでには、その舞台裏で数えきれないほど色の試作サンプルがつくられたのです。

 色が決まった後には、品質面においても越えなければならない多くのハードルがありました。パイロットの厳しい品質基準をクリアするために、万年筆との相性テスト、経時試験や耐光試験など数々の厳しいテストが繰り返されました。こだわり抜いてつくった色が、経年変化によって変わってしまっては製品化できません。特に赤系は経年変化によって色が薄くなりやすいという特性があり、困難を極めました。

 基礎研究から、色づくりや品質テスト、量産試作に至るまで多くの工程を経て、実に5年以上の歳月をかけて、ようやく製品として世に送り出されたのです。



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旅先の露天風呂から望む漆黒の海面が月で照らされる色をイメージして名付けられた「月夜」。その他にも、京都の「竹林」や、お寺で目にした松から滴る露にインスピレーションを得た「松露」など、「色彩雫」の色は企画担当者の実体験を源泉に生まれる。


 そして色の名前を考案する際に企画チームがこだわったのは、旅先で出会った光景など実体験に基づいた発想。こうした独特なネーミングや企画の姿勢は、発売から十数年経ったいまも、担当者から担当者へ代々受け継がれています。

 「例えば新たにピンク色を企画するときに、桜の花びらの色を表現したかったのですが、『桜』という言葉をストレートに色の名前として使いたくありませんでした。花が咲いている時期の桜、吹雪のように舞う桜、そんな光景が見られる期間は限られています。自然の刹那をより叙情的にイメージできるような名前をつけるように心がけています」。そう語るのは、2021年末に発売された新色、「花筏」「蛍火」「翠玉」の企画担当者。

 各地の社寺仏閣や庭園、美術館や自然豊かなスポットなどさまざまな場所に足を運ぶことで知見を広げつつ、日本独自の自然や文化にも常にアンテナを張っているのです。

 発売当初は5色でスタートし、翌年さらに5色と徐々に色数を増やし、現在は24色のラインナップで展開しています。

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独特なボトル形状や外箱も
これまでにないデザインを。

 「色彩雫」について語るときに、もうひとつ外すことのできないこだわりがあります。それが、ボトルと外箱です。

 「ボトルをデスクに置いたときに品格が漂うような、美しく洗練された佇まいのデザインを目指しました」

 化粧品など文具に直接関連のないプロダクトをイメージソースにしながら、シンプルで美しい曲線ボディを持ったデザインを考案。インキを吸入するときにペン先の当たりを和らげるために、ボトルの底にくぼみを持たせた機能性の高い形状とするなど、細部までこだわり抜きました。ガラス工房の職人とともに試行錯誤しながら、これまでの国産インキとは趣が異なる、まるで香水瓶のような美しいデザインをつくり上げることができたのです。

 また、外箱もいくつものサンプルを試作しながら模索が続き、インキが入ったボトルがより美しく映えるような、品のあるテクスチャーと上質感あふれるデザインに仕上げました。インキ色はもちろん、ボトルと外箱にもこだわり抜いた結果、「和のブランド」イメージが際立つ独特な世界観を持った万年筆カラーインキが誕生したのです。

 こうして、伝統的な日本の色彩とこれまでにない洗練された装いの「色彩雫」は、2011年に日本パッケージデザイン大賞金賞を受賞。広く評価されるに至りました。



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左:ボトルの底には、吸入時にペン先の当たりを和らげるためのくぼみがある。右:マニキュアなど化粧品をイメージした15ml用のオリジナルのミニボトル。


 2010年には欧米での販売もはじまり、色の雫から広がる水紋のように、「色彩雫」のファンはいま世界中へ広がっています。

 色とりどりの「色彩雫」で、移ろいゆく季節をたどるように万年筆のインキを入れ替えて、日本の四季を感じてみてください。



「iroshizuku 色彩雫」青系インキの美しさを堪能できる動画はこちら 〉〉〉「かく、を楽しむ」

製品情報はこちら 〉〉〉「iroshizuku 色彩雫」 製品情報はこちら 〉〉〉「iroshizuku mini 色彩雫」3色セット

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